交通安全教

@tsuk46

前編

若いカップルが車を走らせていた。

運転席の青年の胸には初心者ドライバーの証、まだ緑色の免許証がかけられている。

狭い車、隣りあう二人。

車の中では二人だけの時間が、窓の景色と同じ速さで流れているのだろう。


彼らが走る高架道路は、地平線の彼方までビルが並ぶ一面の夜景を見下ろしていた。

奥へと横へと整然に並べられた、

これまたそっくり同じ高さのビルの隙間に道路が何層にも重ねられたこの景色は

現政権が長い年月をかけて緻密な計算のもと設計したらしいが、

二人にとってはどうでもいい話だ。

彼らの前で意味があるのは、ドライブデートにふさわしいこの絶景だけ。


二人の車は道路の速度標識をわずかに超えていた。

「少し速くない?」と助手席の女が呟いたのを、面倒がって男は聞かなかった。

彼が成人になった証にと両親から贈られたピカピカの新車は、若気の至りか彼女への見栄か、速度を緩めずカーブへと挑む。


高架道路の急カーブを、速度超過気味に曲がり抜けたその先で……

待ち受けていた警官が、彼らを止めた。


さて、車を停められた男は警察の指示に従い、ふさわしい罰を受けることとなった。


―――追放刑である。


女の方は彼氏の速度違反を咎めたことが認められ少額の罰金を支払うのみに

とどまったのだが、

運転者の男の方は重大な速度違反のため住居を奪われる追放刑

―――すなわち事実上の死刑が確定したのだ。


「交通違反者は人にあらず」

この心得は今や誰もが守るべき規範として人々に根強く浸透していた。


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