第32話「塔の下で」

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 美しいクラウディアの海をピンク色の塔が見下ろしていた。

 海の濃いと淡いの対照的な色が作り出すコントラストが映える。

ここはザンスター・サオールズの名所、クラウディアの灯台。


「ワターク……。

 どうしたの?こんな所に呼び出して。」

ユラーハは頬を赤くして、ワタークを見つめて言う。


 幸に背中を押されたワタークは、決意を持って、ユラーハを塔の下へ呼び出していた。


「あぁ、ユラーハ。

 私は君をマドモアゼルと思ってるよ。」

マドモアゼルと言えば良いと思っている男。


「ワターク……。」

ユラーハはモジモジと俯き更に顔を紅潮させる。それでいいのか。


「今日はこれを2人の愛の証として、ここに植えたいんだ……。」

ワタークがそっと手のひらを開けるとそこには二つの種が。


「まぁ!!

 それは花の種ね!?

 わたくしと此処にこの種を植えるのね!?」

ユラーハは遂に夢が叶うと思い、嬉々として言う。


 この地域の植物事情を全く知らないユラーハは、植えたら必ず綺麗な2輪の花咲くと思っている。


「あぁ、そのつもりさ。

 この種なら何故か全て上手く行く気がするんだ。」


 ケイケスに領主が代わり鬱々とした気配が立ち込めつつあるザンスター・サオールズ。


 この町に突然現れた【佐倉幸】と言う特異点。

 彼が現れてから、この町の、自分の置かれていた状況にあらゆる変化が訪れた。


 何より音楽。


 あの旋律を奏でる男が只者なはずがない。

音楽があんなに美しいものだと初めて感じたのだ。

 ユラーハもダンジョンコアを託すほど、気を許している。更に魔物すらも。


 人間、精霊、魔物。

全く違うそれぞれ。

元来相容れるはずのない違う生物。

 それを音楽、ただ一つを持って、結び繋いだ佐倉幸。

 その男に託されたこの種。


 かけてみたいと思った。

自分も絆されているのかも知れない、彼の音楽に。

 しかし、そんな事どうでも良いと思えるほど、信じてみたいのだ。


 最愛のユラーハに愛を伝えるため。

2人の幸せのため。


「じゃあ、ここに2人で植えよう。」


 そう言うと、夏も近いこの時期に2人は素手で土を掘り始める。


                     "ザクザク"


 時折、2人は汗を拭う。

掘り進めた貴族の服の袖は土だらけ。

気付けば顔は、泥だらけ。


 汚れる事も気にしない。

一つの目的を共にする尊さ。

2人の初めての共同作業だ。


 そうして、ピンクの灯台の根元に2人は種を植えた。

 お互い顔を見合わし泥のついた顔に少し吹き出す。

そして見つめ合って、キスをする。


「ユラーハ。

 この種が咲いた時、私の愛の詩を聞いてくれないか?」

ワタークが抱き寄せて伝える。


「分かったわ。

ワタークわたくしはいつまでも待つは。」


 離れかけた2人の手が再び絡み合った瞬間である。


 人間と精霊の恋愛。

決して相容れないと恋と言う事はない。

 紆余曲折があろうとも、少しずつでも前に向かっているのだ。


 果たして2人の愛の種は潮風に負ける事なく見事咲いてくれるのか。


…………。


……。


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