第33話「朝から向かうのは服屋」
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“チュンチュンチュンアサチュンチュン”
朝を告げる鳥が鳴いた。
「ふぁぁあ……。」
昨日の余韻も残った幸せの寝起きをかます、幸の欠伸。
「おはよ、幸。」
案の定というほどに、幸に顔を近づけてほっぺたをつんつんしているキヨラ。
「あぁ……。
おはよ、キヨラ。」
昨日の刺激的すぎる夜に比べたら、このぐらいちょっと慣れてしまった幸。
「……ふーんだ。」
意外にも拗ねてるキヨラ。
「……でさでさ。
今日は色んなもの買いにっ……というかもらいに行かないとだね。」
昨日の警備兵の話。
実際に宿に無料で泊めてもらっているいじょう、何でももらっていいというのもあながち嘘ではないだろう。
「そうだね……。
ちょっと申し訳ない気もするけど。」
幸が言う。
でも実際に、これから壮大な旅をするということを考えると、無駄なモノなどひとつもないというほどに、物は入用になる。
そして二人ともお金は持っていない。
当然のように食料、そして野宿のグッズ、そして何より……。
「まずは服だね!!!」
キヨラがこぶしを突き上げ熱く語る。
「幸のその服は、意味わかんないし。
私のこの服は、もう服っていうか布だし。
異世界人って分からない様に。楽奴って分からない様に……。
普通の旅人を装った服は絶対必要だよ。
それと、……ステージドレス?」
最後のはキヨラが欲しいだけ。
でも確かに服は、普通の人に紛れるにはかなり必要なものである。
この世界は楽奴、平民、貴族、王族としっかり階級が分かれているので、TPOにあった服装は大事なことだ。
そういう意味では、キヨラの言ったステージ衣装も必要な時は必ずあるであろう。
「そうだね。
どうせピーネも起きないし、色々見て回ろうか。」
幸がピーネを愛おしそうに見て言った。
「いいね。
デートみたい。
幸と二人で!」
キヨラがいたずらっぽく笑いかける。
「ちッ違うよ!
買い出しだよ!」
幸は少しむきになる。
幸とキヨラは身支度をささっとすまし、賑やかな中央通りへと繰り出した。
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……。
…………。
中央通りはいつものように活気があり賑わっている。
しかし、幸を見てもキヨラを見ても誰も嫌な顔をせずむしろ……。
「幸ちゃん!
おはよう!!
ほら、うちのピーマンの丸焼き食べな!」
屋台のおばちゃんが幸に笑顔で叫んでいる。
「おばちゃん。おはよう。
いいのもらって?」
幸も笑顔で返す。
「もちろんだよ。
なんたってあんたはこの村の英雄だからね。」
さも当たり前みたいな顔で、幸とキヨラにピーマンを手渡す。
「英雄って大袈裟だなぁ。」
幸は少し照れて言う。
「なぁに言ってんのよ!
幸ちゃんのおかげで、この村のナメクジみたいなひよっこい根性が、叩き直されたんだから。」
おばちゃんの熱弁。
「そっそうかなぁ。
とにかくピーマンありがとう。」
幸はそう別れを告げ服屋を目指す。
確かにこの村は大きく進歩したようだった。
皆で、今までの逃げ腰根性を捨て、しっかり嫌なものは嫌と抵抗する心を持つ、と決めたらしい。
前向きに先の事を考えるというのは、当たり前の進歩であろう。
その決意を示すためとして、悪ガキ6人組と、ゴブ達が割った窓はなんと、どの家もそのままにするとのことだった。
吹きすさぶ隙間風があっても、戒めとして、心が逃げない様にする楔にするんだとか。
ピーマン売りのおばちゃんに別れを告げ、服屋にたどり着いた二人。
早速、服を物色する。
「あらぁ、キヨラと幸ちゃん!
あたしのお店来てくれたのね。」
店員は“オネェ”だった。
「来たよ。
とりあえず普段着と、ライブするときの服欲しいなぁって。
本当にもらってもいいの?」
キヨラがお願いのウインクしながら言った。
「もちろんよぉ。
あたしが最高に似合う服を選んであげる。」
オネェはそういうと、幸の身体をなめる様に見定めた。
「あぁいいわぁ。
中肉中背。
普通の男の子って感じ。」
嬉しくもない感想。
「キヨラは……。
まっ昔から分かってたけど、
やっぱりむかつくほどスタイルいいわね。」
ハンカチを噛んで“キーッ”と言いそうな顔をしている。
「待ってなさい。
最高の服を選んできてあげる。」
そう言ってオネェは二人をおいて自ら服を選びだした。
その間に服を色々見ている二人。
「幸!
こういうのはどう?」
キヨラがおもむろに見せてきたのはバニーガールの恰好だった。
「そっそれは、ちょっと過激っていうか、コスプレなんじゃないかな?」
目線を外しながら幸がつぶやく。
しかし、バニーガールがなにか頭に引っかかった。
幸も何かないかと店の服を目を皿にして見る。
_____ピーネと一緒に旅をしたい_____
その手掛かりになる何かはないものか。
不意に幸は蝶ネクタイが付いた派手な燕尾服に目が留まった。
留まったというよりかは釘付けになったという感じ。
…………。
……。
「二人とも~。
いい服見つけて来たわよ~。」
オネェが帰って来た。
キヨラはすぐに飛びつく。
「おっどれどれ?
見せてよ。」
持ってきたのは、目立たない様にという要望だったので、白を基調とした旅人の服。
それには肩や肘、そして胸当ての部位に、ミスリルだと分からないように、ミスリルを忍ばせていた。
極限まで防御力があげられている品物だ。
「おぉ!
いいじゃん!!
ね!ね!ドレスは?」
キヨラが嬉しそうに問いかける。
「ドレスももちろん取って来たわよ。
これなんてどう?」
青を基調とした美しいドレス。
スカートがアシンメトリーに垂れ下がっており、動きやすさも重視されている。
出すとこは出て、魅せる所はしっかりと華やかにという様に。
「これもめちゃくちゃいいじゃん!」
気に入った様子。
「もちろんピッタリの選んできたわよ。」
オネェの身体レーダーは1ミリの狂いもなく完璧に身体にあった服のサイズを見つけられるらしい。
「幸ちゃん!
あなたにもいいの選んできたのよぉー。
ん?
どうしたの幸ちゃん?」
幸が一着の前で固まっていて、気にするおねぇ。
「……俺この服が良い。」
幸は指さす。
幸が指さしていたのは、先ほどからずっと見ていた、蝶ネクタイの派手派手な燕尾服だった。
「ちょっと……。
ちょっと派手過ぎない?」
オネェはあまり気が進まない。
「いいんだこれで。
俺、これが欲しい!」
幸の強い熱意。
「……。分かったわ。
でもせめてミスリル加工とか、どこに行っても恥ずかしくない様に整えるから、しばらく待って頂戴。」
オネェは観念し承諾。
「やった!
ありがとう!!」
幸は、はしゃいで言う。
「ふーん、なんか思いついたのね?」
キヨラはピーンと来ていた。
「うししっ。
そうだね。ちょっといい事、思いついたかも。」
そう言って幸はにひっと笑った。
幸が何を思いついたのかは後で口述するとして、服の買い物はここで終りとなった。
…………。
……。
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服も手に入れたし、あとは雑多なものを……と、キヨラは思っていた。
しかし、幸が鍛冶屋へ行きたいというから、二人は向かう。
「剣とか欲しいの?」
キヨラは鍛冶屋へ行く理由を問う。
確かにこれから危険な事もあるかもしれない。
ファンタジーと言えば剣なのだから幸がそそられるのも一理ある。
「違うよ。」
幸の返答。
幸なら武器を持つよりギターを持つ方がはるかに強いのは当然だ。
「ついたら分かるよ。」
幸は含み笑いをする。
鍛冶屋について幸が言ったことは……。
「ギターケース作ってください。」
幸の願い。
今までピーネの飛行中や、それ以外でも本当に大変だったのはギターを運ぶこと。
幸は何とかそれを改善したかったのだ。
それも後で取りに来てと言う事だったので、後にすることにした。
そして二人は雑多な様々なモノを買って、一度ピーネの眠る宿に帰ることにした。
…………。
……。
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