第32話「その日の夜に」
**************************************
信じられないほど楽しくて素敵な夜が更けた頃。
幸達は警備兵の言っていた通り、宿に泊めてもらっていた。
村の小さな宿である。そんなに部屋数も無いということで、
幸とピーネとキヨラは相部屋だった。
ピーネは鳥のように蹲って寝るのがいいらしく、ベットには乗らず、毛布をぐしゃぐしゃに床に弾いて鳥みたいにして眠っている。
幸とキヨラは同じベットだ。
男と女が一つのベットである。
並みの高校2年生なら流石にドキドキして眠れない所だ。
しかし、幸は打ち上げで、村人全員と話したのではないか、というぐらい沢山の人と話をして、飲んで食べて笑い合った。
もうへとへとで何も考えることなく眠りに落ちていた。
…………。
……。
夜の帳も下がり切った頃、幸は身体の違和感に微睡みから引き戻された。
ほっぺたがずっと痛くもなく、痒くもない程度に刺激され続けている。
眠たい目をこすりうすら目を開けると、キヨラだった。
キヨラは口にその息がかかるほどの距離でずっと幸のほっぺたをつんつんしていた。
「んんっ、キヨラ?
何してるの……?
ん!?!?
ちょっとキヨラ!!」
幸の眠たい目が一気に覚める瞬間だった。
キヨラは生まれたままの姿でずっとつんつんしていた。
細くとも女性らしい柔らかさをしっかりと残した太ももが、幸のそれを挟んでいる。
触らせるという事も無いが、ただ距離の近さで、キヨラの宝石の様な柔らかいものにひじが当たっていた。
「ちょっと!?
なんで!?
ふっ、服を着てよ!服を!!」
このシチュエーションは流石に幸には耐えられない。
“はっ”として前かがみになり、急いで反対を向いた。
そこにさらにぐぐっと詰め寄るキヨラ。
幸を後ろから抱きしめて、いよいよ喋り出す。
「幸……、起きた?
……この二日間、本当にいろいろあったねぇ。
出会って、演奏して、魔物達と楽しく過ごして、そしてこの村でもライブして、それでこんなに楽しくって……。
……ありがとう。
私達がずぅーっと、どれだけ苦しくて悲しくてやりきれなかったか……。
この村で私はずっとさ……。
……それを幸が一発で救っちゃったんだよ。」
キヨラの吐息が首筋に当たり続ける。
「……なんていうのかな。
私達、“楽奴”ってよく分からない役割だし、どうしようもないし、それが当たり前だし……。
救われるなんて思ってもみなかったんだ。
ありがとう。
本当に幸に全部をあげれるくらい感謝してるんだよ。」
声がかすかに掠れてるようにも聞こえる。
「いっ、いいんだよキヨラ。
俺だってキヨラに救われたんだ。
この世界に来て、魔物とは仲良くなれたけどさ。
人間には……。ひどい事言われちゃって。
そんなときにキヨラがくっいて来てさ。
嬉しかったんだ。」
背中に柔らかみを感じながら幸が告げる。
「だからさ、一緒に【成すための旅】さ。
キヨラは手伝わせてって言ってくれたけど。
改めてさ……。
俺と一緒に旅に出てくれない?」
幸ははにかみながら、精一杯伝える。
「……嬉しい。
もちろん!
どこまででもついていくから。」
抱きしめたキヨラの力が強くなる。
キヨラは、さらに言葉を続ける。
「でもさ、これからの旅。
この村は小さかったし何とかなったけど。
もっと大きい町とか、王様がいる城がある所とかさ、どうやったらいいんだろうねぇ。
どうしたらいいのか、なんにも考えられないくらい大変な気がするね……。
……でもまぁ、それと同じくらいに、幸の音楽ならなんとかしちゃうんだろうなって気もするけど。」
キヨラがあっけらかんとして言った。
「そうだね。
俺なんかこの異世界のこと何にも分からないしさ。それこそ。
とにかくやってみるしかないよ。俺達の音楽でさ。」
幸の今の気持ち。
漠然としすぎる現状。
何も分からなくとも、ギターさえあればなんとかなる。そう思えている。
「それとさ、ピーネの事……。
この子、絶対ついてきたいって言うと思うんだ。
でも……。
人間の町で、楽奴を……、人間から音楽を解放するんだから。
魔物を連れて行くってどうなのかな?
私だってピーネ大好きだし一緒に行きたいけど……。
何か方法あるのかなぁ?」
キヨラは愛おしそうに、眠りこけるピーネを見つめながら言う。
幸に対するライバルを減らしたいなんて気持ちは、おそらく微塵もないだろう。
人間の魔物への対応はこの村でも十分に幸に伝わった。
街への出入りを考えるのであれば、魔物を連れて行くなどとんでもない話である。
「そうだね……。
……それでも。」
それでも……。
幸はピーネと一緒に行きたいと思う。
あの地獄のような現実世界から考えたら、今の幸は幸せである。
好きな音楽を一緒に出来る仲間。
自分の音楽を聴いてくれる人々、そして魔物。
_____全部の始まりにピーネがいた_____
ピーネがいたからここまでこれたのだ。
ピーネがいつも自分の事を考えていてくれたから。それが伝わったから。
どうにかして大切な仲間と一緒に旅する方法を考えたいと思った幸だった。
そして夜が明けていく。
…………。
……。
**************************************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます