第24話「バーウの村へいざ行かん」


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……。


…………。


 高速飛行で飛んで行く物体は、今回も奇跡的に見つかる事なく、無事に村の外れまでやって来る事に成功した。


 スピード自慢が功を奏し、日が傾き始める前には到着し、まだ太陽は真上から照らしている。


「ふぅぁー!

 やっぱりピーネと空飛ぶの最高だね!

 気持ち良かったー!」

ヴァイオリンのケースにピーネのハープも引っかける事に成功したキヨラ。


 人生二回目のフライトも、気兼ねする事が何もない状態で、空遊観覧を楽しんでいた。


「どこが最高だよ……。」

三度の空中苦行を体感した幸が、白目を向いて吐き捨てた。

 今回も決死のしがみつきで、ギターを落とす事はなかった。


 とにもかくにも、バーウの村に到着した3人。

あとは目的通り、ライブのチケットを町中の人々に渡すだけである。


「どうしよっか……。

 本当は楽器は置いてった方がいいんだろうけど……。

 私が楽奴な事は村の人全員に知られているし、幸は酒場のマスターと喋ったんでしょ?」

キヨラが腕を組みながらどうするのがいいか考える。


「うん……。

 喋ったよ。」

幸は嫌な気持ちを思い出す。


「だよねー。

 あの人と喋ったのなら、村中の人がもう幸の事知ってると思った方がいいよ。

 だったら楽器持ってても、持ってなくても一緒だね。」

キヨラは残念そうに言う。


「楽器が無かったら、受け取ってもらいやすいだろうから……。

 ピーネに、ここで楽器を見てもらって、私達で配るとか出来たんだけどね。

 私は上手く顔を隠したりして。」

村人の不快はおそらく、楽器を見た時点から始まるというキヨラの考察。


「やだ!やだやだ!!

 置いてかれるのやだ!!!

 俺も一緒に行く!

 空から煙突にチケット入れるぞ!」

朝のチケット作りを除け者にされた恨みは深い。

 まぁ自分が寝ていたのだからしょうがないが。


「とっ、とにかく!

 もうこうなったら行くしかない!」

 幸も他人間との接触は恐怖でしかないが、それでも、"成すため"。

楽奴と、ひいては村人を"音が苦"の呪縛から解き放つ為に、頑張ると決めた。


        「「「「行くぞ!!!」」」


 3人は覚悟を決めて、バーウの村まで歩き出した。



…………。



……。



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 決戦の地。

 バーウの村の正門側にたどり着く。

そこには、堀を越えるための橋がかかり村まで続いてる。


前回と違うのは、村の入り口にはミスリルのセットアップの3人の警備兵が立っていることであった。


 入り口はそこしかない為、どうしようもなく、キヨラと幸の2人は橋をバーウの村へ向かい歩きだした。


「おっお前は!!

 昨日のギター野郎!!」

警備兵の1人は、幸達が昨日の騒ぎの渦中の者であると、判断出来る所まで歩いて来た途端、"ドダダダダッ"と走って来た。


 真っ青になり硬直する幸。


         “ガシッ”


「お前の演奏凄かったぞ……。

 音楽があんないいもんだなんて知らなかったよ。」

ミスリルセットアップは、幸を歯がいじめにして捕らえたりするのではなく、幸の肩を抱き、笑いながら言った。



「……えっ。

 あっ、ありがとうございます……。」

幸は意外な言葉に戸惑いつつも、自分への好意に素直に感謝する。


「村の奴らには、って言われたんだよ。」

警備兵は絶望的な事を口にしだす。


「でもな。

 お前達ライブしに来たんだろ?

 そのギターで、この村に音楽をくれよ。

 みんなの心を音楽で染めてくれよ。

 俺達はお前達を歓迎する為に待っていたんだよ。」

ミスリルセットアップは熱いセリフを、今熱い事言ったみたいな笑顔で幸に告げる。



「あっありがとう。

 俺達……、頑張るよ……。」

幸は予想だにしない熱い言葉を飲み込み、火傷しないように丁寧に噛み締めたのだった。


 3人にチケットを手渡して、3人に強い勇気をもらった2人は、ズンズンと村の入り口へ入っていった。

 


…………。



……。



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