第24話「バーウの村へいざ行かん」
**************************************
……。
…………。
高速飛行で飛んで行く物体は、今回も奇跡的に見つかる事なく、無事に村の外れまでやって来る事に成功した。
スピード自慢が功を奏し、日が傾き始める前には到着し、まだ太陽は真上から照らしている。
「ふぅぁー!
やっぱりピーネと空飛ぶの最高だね!
気持ち良かったー!」
ヴァイオリンのケースにピーネのハープも引っかける事に成功したキヨラ。
人生二回目のフライトも、気兼ねする事が何もない状態で、空遊観覧を楽しんでいた。
「どこが最高だよ……。」
三度の空中苦行を体感した幸が、白目を向いて吐き捨てた。
今回も決死のしがみつきで、ギターを落とす事はなかった。
とにもかくにも、バーウの村に到着した3人。
あとは目的通り、ライブのチケットを町中の人々に渡すだけである。
「どうしよっか……。
本当は楽器は置いてった方がいいんだろうけど……。
私が楽奴な事は村の人全員に知られているし、幸は酒場のマスターと喋ったんでしょ?」
キヨラが腕を組みながらどうするのがいいか考える。
「うん……。
喋ったよ。」
幸は嫌な気持ちを思い出す。
「だよねー。
あの人と喋ったのなら、村中の人がもう幸の事知ってると思った方がいいよ。
だったら楽器持ってても、持ってなくても一緒だね。」
キヨラは残念そうに言う。
「楽器が無かったら、受け取ってもらいやすいだろうから……。
ピーネに、ここで楽器を見てもらって、私達で配るとか出来たんだけどね。
私は上手く顔を隠したりして。」
村人の不快はおそらく、楽器を見た時点から始まるというキヨラの考察。
「やだ!やだやだ!!
置いてかれるのやだ!!!
俺も一緒に行く!
空から煙突にチケット入れるぞ!」
朝のチケット作りを除け者にされた恨みは深い。
まぁ自分が寝ていたのだからしょうがないが。
「とっ、とにかく!
もうこうなったら行くしかない!」
幸も他人間との接触は恐怖でしかないが、それでも、"成すため"。
楽奴と、ひいては村人を"音が苦"の呪縛から解き放つ為に、頑張ると決めた。
「「「「行くぞ!!!」」」
3人は覚悟を決めて、バーウの村まで歩き出した。
…………。
……。
**************************************
決戦の地。
バーウの村の正門側にたどり着く。
そこには、堀を越えるための橋がかかり村まで続いてる。
前回と違うのは、村の入り口にはミスリルのセットアップの3人の警備兵が立っていることであった。
入り口はそこしかない為、どうしようもなく、キヨラと幸の2人は橋をバーウの村へ向かい歩きだした。
「おっお前は!!
昨日のギター野郎!!」
警備兵の1人は、幸達が昨日の騒ぎの渦中の者であると、判断出来る所まで歩いて来た途端、"ドダダダダッ"と走って来た。
真っ青になり硬直する幸。
“ガシッ”
「お前の演奏凄かったぞ……。
音楽があんないいもんだなんて知らなかったよ。」
ミスリルセットアップは、幸を歯がいじめにして捕らえたりするのではなく、幸の肩を抱き、笑いながら言った。
「……えっ。
あっ、ありがとうございます……。」
幸は意外な言葉に戸惑いつつも、自分への好意に素直に感謝する。
「村の奴らには、お前達が入って来ないように見張っとけって言われたんだよ。」
警備兵は絶望的な事を口にしだす。
「でもな。
お前達ライブしに来たんだろ?
そのギターで、この村に音楽をくれよ。
みんなの心を音楽で染めてくれよ。
俺達はお前達を歓迎する為に待っていたんだよ。」
ミスリルセットアップは熱いセリフを、今熱い事言ったみたいな笑顔で幸に告げる。
「あっありがとう。
俺達……、頑張るよ……。」
幸は予想だにしない熱い言葉を飲み込み、火傷しないように丁寧に噛み締めたのだった。
3人にチケットを手渡して、3人に強い勇気をもらった2人は、ズンズンと村の入り口へ入っていった。
…………。
……。
**************************************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます