第147話 夢姫、挑戦する。(11)
「王様、しかしそれでは……!」
「夢姫様は外の世界をご存知ないのですぞ」
「傷心の夢姫様が身投げでもなさったらどうなさるおつもりですか」
謁見の間に集った複数の家臣から反対の声があがります。声をあげる面々に、王様はエメラルドの双眸の視線を投げつけました。その瞬間に誰もが口を噤みます。王様の気迫に圧倒されたのです。
「夢姫が自ら選び取ったことだ。その代わり警護は派遣する」
「王様!わたくしが警護の隊長として参ります!」
「いえ!わたくしの館なのですから、わたくしが参ります!」
第一王子と第二王子が競い合うようにして名乗りをあげました。か弱い姉が心配でたまらないのです。
「お前たちは城に残れ」
「ですが!」
「その代わり、面倒姫に力を借りる」
突然の白羽の矢に、面倒姫はターコイズの瞳を大きく見開きました。そんな面倒姫に全員の視線が集中します。
「わたくし、ですか?」
「うむ。毎日、夢姫の様子を見に行ってやってくれんか。こういうときに必要となるのは、友情であろう」
面倒姫は「そういうことならば」と思いました。
「役目を賜り光栄に存じます。明日も明後日もその次も。夢姫様がお戻りになるまで、自主的にお傍へ参ろうと考えておりました。それを公認いただく形となり感謝申し上げます。夢姫様のためにも力を尽くします」
「そうだったか。そのように思ってくれる友が夢姫にできたことを嬉しく思う。娘のことを頼んだ」
面倒姫は深々と淑女の礼をとりました。家臣らには「それならば面倒姫様におまかせしよう」という空気が流れます。
「なお。くれぐれも夢姫が王城から居なくなったことを漏らすことがないように。万が一、ここに揃っている面々以外の者に知られたならば、夢姫の命が狙われることにもなりうる」
王様の頭の片隅には王弟殿下のことが過りました。考えようによっては、王弟殿下にとっては絶好の機会です。一日も早く夢姫に王城へと帰ってきてもらうためにも、友人の言葉が一番効くだろうと王様は考えたのでした。
面倒姫は夢姫を王城へと連れ戻すため、何が一番良いだろうと思索にふけりました。絵を描いてみせるのもいいかもしれないとはじめは思いましたが、そのように物で釣るやり方はよくないかもしれないと思い直しました。
そうして考えるうちに夜が明けてしまいました。白み始めた山の端を窓際眺めながら、面倒姫は一つのことを思いつきます。
「そうよ!なにか特別なことをする必要はないのだわ!」
思い立ったら即行動の面倒姫は、着ていた寝間着を剥がすようにして脱ぎ去りました。そして着替え部屋へと入り込み、城下町を散策するワンピースへと召し替えます。その物音を聞きつけた召使いが慌ててやってきました。
「面倒姫様。おはようございます」
「あら。急がせちゃったかしら」
「いえ。まさかもうお目覚めになられたとは思っておりませんでした」
「ごめんなさいね、早くから」
「それでその恰好は?」
侍女が面倒姫の装いに目を丸くします。それはどこからどう見てもドレスではないからです。
「今から城下町へ行くわ」
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