第144話 夢姫、挑戦する。(8)
夢姫を攻撃するような席になったところで、不機嫌な声をあげたのは面倒姫でした。
「まあ、まあ。いやらしいとはどういうことでしょう」
驚いてみせる侯爵令嬢ですが、目元も口元も馬鹿にしたように笑っています。
「とてもいやらしいではございませんか。第一王子が侯爵令嬢とご婚約されるなんて、なにかの間違いでは?」
その場に居た令嬢方は「まあ」と口々に声をあげ、ざわつきました。「間違いだなんてなんて失礼な方なのでしょう」と面倒姫に聞こえるように言葉が飛び交います。
「わたくしが自分で申し上げたのではございません。周りの方々からそのように言っていただくことが多いだけにございます」
「それにしては随分と天狗になってらっしゃるのね。正式なお話でもないのに」
「まあ。そんなことはございません。しかしながら、第一王子殿下とご結婚される御方というのは、将来のお后様になられる御方。であるならば、社交界で認められた方が一番良いに決まっています」
「ご自分が社交界で認められていると?」
「それはわたくしには判断がつきません」
「これでもし、王家から婚約のお話が参りませんでしたら、とても恥ずかしいことですわね」
「なっ……!」
さすがに侯爵令嬢の逆鱗に触れたらしく、今の今まで余裕さえ見せたその顔に、うっすらと血管が浮き出ました。
「聡明な御方というのは、正式なお話があるまで他言しないものですわ。お后様にはその聡明さが求められると思いますが、違いますか?王族というのは権力を持てるだけではないのですよ。その権力を正しく使うのが王族に相応しい者です」
面倒姫から諫められ、侯爵令嬢はぎりぎりと奥歯を鳴らしました。
「それじゃあ、夢姫様はどうなのでしょうか。権力を正しく使われているのでしょうか」
負け惜しみのようなそれでしたが、夢姫の心を抉るには十分すぎる言葉でした。
「え……?」
夢姫が戸惑っていると、侯爵令嬢はそれ見たことかとでも言わんばかりに言葉を続けました。
「今までただの一度も王城から出られず、公務にもつかれず、それでお姫様の役割を果たされているのでしょうか。王族は民からの大切な税金で暮らしをしているのでしょう。それなのに、今日までわたくし共の面前に姿さえ現しにならなかったのは、どういう了見なのでしょうか」
「それは色々な事情がおありになられてのことですわ。夢姫様とて一人の人間。それとも、国王陛下が甘やかされたとでも言いたいのですか?不敬罪にあたりますよ」
「不敬罪に当たったとしても、そこに不満を持っている民は少なくありませんわ。それに死ぬまで王城から出られないということでしたら、いつまで民のお金で夢姫様のことを養えばよろしいのでしょうか。なにか国のためになられているならまだしも……」
侯爵令嬢が息を吹き返したようにそう言うと、周りの令嬢方はそれを応援するかのようにクスクスと笑いました。夢姫にとってそれは非常に居心地の悪いものでした。面倒姫の助けがあるとはいえ、ただお茶会に出るだけでこんなにも責められるとは思いもしなかったのです。
「夢姫様は人の持っている力を引き出されるのがとてもお上手ですわ。それは他人が真似できることではございません。夢姫様の周りにいらっしゃる召使いを見れば分かります。きっと夢姫様の弟君があんなに真っすぐで立派に御育ちなのも、夢姫様の一助があってのことでしょう。夢姫様が国のためになっていないなんて、側面しかご覧になられていない侯爵令嬢にどうしてそう決めることができるのですか」
「夢姫様の召使いなんて、わたくし共はお会いすることさえできませんわ。夢姫様が普段どんなことをされているのかなんて、わたくし共は知りようがないのです。ですから、知っていることで語るしかないのです。それをされたくないのであれば、公務にもっと積極的になられるべきですわ」
面倒姫はぐっと押されました。侯爵令嬢の言うことはもっともだからです。王族がどんなことをしているのか、知ってもらうには公務しかありません。
「それに。面倒姫様こそ御国の方々に煙たがられている存在なのでしょう。そんな御方に言われても」
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