第12話 夢姫、決意する。(12)

 おもてなしの夢姫のことです。面倒姫が二、三日早く到着しても良いように準備を進めてきました。ところが、それよりももっと早い日数で着いてしまわれるとの報に、夢姫の思考は停止してしまいました。夢姫の想定より逸脱していたからです。

 

「どうしてこんなことが?」

 

 自室の窓辺にあるお気に入りの一人掛けの猫足ソファに腰かけて、窓の外から視線を外さずに第一王子に問いかけました。

 

「どうやら、道中のすべての行程を切り上げられたそうなのです。」

 

 面倒姫の旅程は、隣国から事前に提出されたものでありました。隣国の王城からこのお城まで早馬を飛ばせば十日で到着する距離です。しかしそこを馬車に揺られながら、ゆっくり旅を楽しむために、二十日で到着する旅程が組まれていいました。ところが面倒姫はその旅程を面倒に思ったのか、市場に寄ったときも馬車から降りることはなく、宿から出発するのも毎回早朝には馬車を出していたそうでした。

 

 それを聞いた夢姫は、大きく溜息をつきました。どうにも、自分の噴き出しそうな感情を止められそうにないからです。「旅程があるのですから、その通りになさったら良いのに」と思えば思うほど、ぐるぐると薄黒い感情が渦巻きます。

 

「面倒姫は、どうして迎え入れるこちらの事情も組んでくださらないのかしら?」

 

 弟だけにはつい本音を漏らしてしまいます。

 

「それはおそらく、面倒姫が面倒と呼ばれる所以なのではないでしょうか。ご到着もされてない今から面倒事を起こされておりますね」

「本当にその通りですわ。一体どんな方なのかと思いきや、とんでもない面倒な方なのかもしれないですわね」

 

 夢姫はようやく第一王子の方を向きました。ここでどうこう話をしても、何も進まないのは夢姫も分かってはいます。しかしどうしても身体が動かないのです。

 

「どうしましょう。面倒姫をお迎えするやる気がどこかへ消え去ってしまいましたわ」

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