第13話 夢姫、決意する。(13)

 夢姫の胸の内から、面倒姫をおもてなししたい気持ちが千切れてしまいました。思いがけない出来事が起きると、夢姫はもう考えを立て直すことができなくなり、ついには考えることも作業も放棄してしまうのです。

 

「姉上。それでは困ります。もうあと三日しかないのです。なんとかできることだけでもしてしまわねばなりません」

「分かっていますわ。でも、どうしても動く気になれないの。ああ、もう。一人にしてくれるかしら?」

 

 声色がいつもの夢姫と違いました。正確に言うと、気が動転しているときの夢姫と寸分も違いないので、第一王子は「ほっておくしかないか」と思いました。

 

「気持ちが整ったら呼んでください」

「……」

 

 夢姫は返事をしませんでした。背中で第一王子が軽く会釈したのを感じてから、扉が閉まる音を聞きました。夢姫はゆっくりと両膝を抱えます。椅子の上ではしたないと誰かに怒られても仕方のない恰好ではありますが、今は誰も居ません。ドレスの裾がひらひらと揺れます。夢姫はただそれを見つめました。

 

「いったいどうしたらいいっていうの……」

 

 か細い声が漏れます。夢姫だって本当は分かっているのです。今はこんなことをしている場合ではないことも。一刻も早く、指示を出さなければなりません。そして、できないことは切り捨てて、できることの中で対応をするしかないとも思っています。でも、波風の立った心では、それをすることができないのです。

 

 今はただ「面倒姫のせいでこんなことになっているのだわ」という感情が、夢姫を支配します。「どうしてご自分の御都合ばかりなのかしら。旅程が二十日ということは、こちらの準備だって二十日はかかるということが、どうして分からないのかしら。そんなことで、隣国の姫君がお務まりになられているのかしら」と、面倒姫のことを考えれば考えるほど、責任をなすり付けてしまいます。それが夢姫にとって、唯一自分を守ることのできる術だからです。

 

「わたくしは何も悪くないはずですわ」

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