第9話 夢姫、決意する。(9)

 お后様は、知ってほしかったのです。この城に居る人以外と交流することが、どれほど大切なのかということを。

 

「知る、ですか?」

「ええ。もしかしたら、夢姫と面倒姫は友達になれないやもしれません。それとはまったく反対に、腹心の友となれるかもしれません。しかしながら、それは実際にお会いしてみないと分からないことであります。面倒姫と呼ばれている隣国の姫です。失礼のないように接することは大前提ですが、友達になれなかったとしても、王様もわたくしも誰も、夢姫を咎めることはありませんわ。ですから、そこまで肩に荷物を背負う必要はございません。普段の夢姫ならばきっと、面倒姫にも楽しんでいただけるおもてなしができると思いますよ」

 

 夢姫は唇をまごつかせました。胸の内では不安がひしめいているはずなのですが、王様に初めての公務の機会をもらえたことを嬉しくも思っていたからです。それを感じ取った第一王子は、夢姫の背中に手を回して軽く添えました。


「姉上。不要なご心配はなさらないでください。なんのために王様が、わたくしを補佐役にご指名いただいたのだと?姉上は、ご自分がなさりたいようになさってください。必要な指示はわたくしが行いますので」

 

 への字になりそうだった艶やかな唇は、ようやく開かれました。

 

「わたくしにおもてなしができるでしょうか?」

 

 小さな鈴がちりんと音を零したかのような声に、王様とお后様と第一王子はなんとか堪えましたが、傍で控えていた者らは心を鷲掴みにされてしまいました。謁見の間の隅の方では倒れる者もおり、その者らは速やかに退場しました。


「何を仰せになられますか、姉上。慈愛の御心の深い姉上は、普段から召使いらに対して、おもてなしを成されているではありませんか。それと同じことです。少しばかりもてなしの方法は変わりますが、持つべき心は変わりません。」

 

 夢姫には友達は居ません。それでも、彼女の周りにはたくさんの人が居ます。身支度を整えてくれる者や、散歩に付き合ってくれる者、食事の準備をしてくれる者、夢姫の部屋の掃除をしてくれる者それはもう、数えたらきりがありません。夢姫はそういった者たちに、感謝会を定期的に開催しているのです。

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