第8話 夢姫、決意する。(8)
あまりにも大きな父の笑い声に、夢姫も第一王子も言葉が出ません。そして今度は同じ顔で王様を見ます。それがより一層王様の心を擽ったのか、謁見の間にはさらに大きな笑い声が響き渡りました。
その笑い声に堪忍袋の緒が切れたのか、脇からお后様が登場しました。「もう、しっかりしてくださいまし!」と王様に声をかけられるのは、この国で彼女だけです。あんぐりと大きな口を開けている夢姫と第一王子の近くへとお后様はやってくると、第一王子の腕に添えられている夢姫の手にお后様の両手を重ねました。
「王様の突然の提案に、二人とも驚いていることでしょう。特に夢姫に至っては、これが初めての公務となるのですもの。心がついていかないのも仕方がありませんわ」
優しい母の声に、夢姫の第一王子も少しだけ心が解れました。二人とも、お后様のきらきらしいバイオレットの瞳を見つめます。
「でも、大丈夫です。わたくしも王様も、夢姫にお友達を作ってもらえれば良いというくらいの気持ちなのです。ですから、公務だと肩肘張る必要はございません」
「友達」という言葉を聞いて、夢姫の耳はぴくりと動きました。
「友達だなんて……。怖いですわ」
夢姫のエメラルドの瞳に暗雲が立ち込めます。夢姫に近寄ってくる女子はいつも、利権を狙った者ばかりです。そんなわけで夢姫は、ろくすっぽ同世代の女子とまともな会話をしたことがありません。だから、友達を作ることが怖いというよりも、同世代の女子と友達になれるような会話をすることができるのだろうかという恐怖が湧きあがりました。
「大丈夫ですわ。相手は隣国の姫君です。彼女の呼び名をご存知で?」
しっかりと夢姫の両手を握ったお后様は、柔らかな笑顔で言いました。お后様の問いかけに、夢姫はふるふると首を横に振ります。
「隣国中から面倒姫と呼ばれているそうです。なにかと面倒事ばかり起こすからと、今回隣国の国王陛下から依頼を受けてご遊学を受け入れる運びとなりました。ですから、夢姫は何も難しく考える必要はございません。彼女の人となりを知れば良いのです」
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