第6話 夢姫、決意する。(6)

 夢姫は弟の姿を見るなり、ほっと胸を撫でおろしました。石のように固まっていた身体が、氷が解けるかのように解けていきました。

 

「お父様から謁見の間に呼び出しを受けたの。貴方は?」

「わたくしもです。それならば、一緒に参りましょう」

 

 第一王子は夢姫に腕を差し出しました。彼女は躊躇することなく、そこにそっと手を添えます。弟のエスコートがあれば、謁見の間に入るのも怖くないと思いました。その様子に誰よりも安堵したのは、夢姫に付いている侍女らと兵士らでした。

 

 謁見の間の扉が開かれると、そこには誰も居ませんでした。どうやらここへ呼び出されたのは、夢姫と第一王子だけのようです。「お父様ったら一体何の話なのでしょう」と言葉を零すと、「ひょっとしたら何か大事なことをお伝えになりたいのかもしれませんね」と返答がやってきました。

 

 謁見の間は近隣諸国の大事な御客様を迎えることもあるので、豪華絢爛な造りになっています。円状の広間は大理石で作られており、天井からはステンドグラスを突き抜けた煌びやかな光が降り注いでいます。王座は夢姫が立っているところから三段ほどあがったところにあり、この城で一番大きな椅子が構えています。夢姫の足元には、王座から伸びる赤い絨毯がありました。

 

 しばらくぶりに入った謁見の間は幼い頃の記憶を思い出させるものでもありましたが、あの頃ただ大きく見えただけのものはこんなにも綺麗なものだったのかとも思いました。

 

 幾分も経たないうちに「王様の御成り」と声が上げられました。その大きな声に驚き、夢姫は両肩を少しだけ震わせてしまいます。その様子に気付いた第一王子は、彼女が恐怖を抱いていると思ったのか、彼の左腕に添えられた細い手へとそっと右手を重ねました。

 

「二人ともそろっておるな」

 

 王様だけが通れる扉を経て謁見の間へと姿を見せた王様は、王座へと腰をおろすと開口一番に満足げに言葉を発しました。これからどんな話をされるのだろうと、夢姫の胸には不安が渦巻き始めます。王様にわざわざ呼び出しを受けて話をされることなど、今の一度もなかったからです。

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