第5話 夢姫、決意する。(5)

「ああ、そうだ。面倒姫と相性が良いかは分からぬが、すべては二人を会わせてみてからだ」


 こうして、面倒姫を呼び寄せることとなりました。果たして、夢姫と面倒姫は友人になることはできるのでしょうか。






 それから一ヶ月後のことでした。夢姫は王様から謁見の間へ来るようにとだけ言われ、廊下を歩いていました。夢姫が謁見の間を訪れるのは、五歳以来のことでした。謁見の間はお客様が王様へと御目通りをする部屋ではありますが、弟たちはしばしば王様と一緒にお客様と面会をすることがありました。しかし夢姫はその役目を与えてもらうことはできませんでした。なぜなら、お客様が夢姫に攻撃を加えたらいけないからです。


 夢姫がまだ五歳だった頃、王様は夢姫を伴ってお客様をお出迎えしました。謁見の間で御目通りをするときは、周りに兵士たちも居ます。ところがある気の狂ったお客様は、夢姫に向かって刃物を振りかざしたのです。そのときは夢姫の傍に控えていた兵士によって事なきを得ましたが、それからというものの、王様が夢姫を公衆の面前に立たせることはありませんでした。


 謁見の間が近づいてくるたびに、夢姫は幼い頃の記憶がじわり、じわりと浮かんできました。初めて向けられた脅威に心を痛め、何日も寝込んだことを思い出します。もし今回も怖い思いをしたらどうしよう、と夢姫の掌には脂汗が滲んできました。


 赤い絨毯の上で、夢姫の足はついに止まってしまいました。謁見の間への入り口は、もうあと三十歩先に見えています。どうしても、それから先を進むことができません。夢姫の傍に使えている兵士と侍女は、どうしたものかと頭を抱えてしまいました。


 夢姫が石像のように固まったまま、どれくらいの時間が経ったのでしょうか。夢姫の傍付きの者にとっては二刻にも三刻にも思えました。そうこうしているうちに、夢姫の正面から聞き慣れた足音が響いてきました。向こうも夢姫に負けない行列を作っています。


「姉上、どうなさったのですか?」


 やってきたのは、弟の第一王子でした。彼は夢姫と同じエメラルドの瞳と金色の髪の毛を持っています。立ち止まったままの夢姫を心配して小走りで近づいてきました。

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