エピソードⅡ --箱庭猟兵の鍛錬--
白い朝靄に覆われた四角い緑の芝生の庭・・・それを取り囲む回廊のような白壁平屋の建造物・・・屋根にはチタンに似た金属で作られた暗緑色の瓦が葺かれていた───
ここは空中に浮かぶ
「ハッ!・・・ハッ!・・ハアーッ!!」
『カンッ!・・・ゴンッ!・・・カーン!!』
掛け声とともに、薄紫と紺色の棒が互いに激しくぶつかり、高い音を発する───
「セィヤーッ!!」
小さな身体の者が放った紺色の棒の三連打が、薄紫の棒の攻撃を止めさせる──が、その直後、大きな身体の者が、薄紫の棒を旋風のように下から繰り出した。
「ハァアーッ!!」
小さな者は体を仰け反らせ、バク転とともにその一撃を躱し、次の瞬間には地面を這うような棒の水平打ちを大きな者の足首に向かって放ち、大きな者はギリギリで地面に棒を突き立て、その攻撃を防御した。
「よしっ! ここまでだ! ルイシェ」
大きな身体の青年は薄紫の棒を左脇に抱えるようにして、小さい者が体勢を整えるのを待った。
「ありがとうございます! カーイツ兄様」
小さな身体の少女が答える。
やや息が上がっていた二人は、揃って芝生の庭の端にあるベンチに腰を下ろした。
やがて、カーイツと呼ばれた男が話し出す。
「ルイシェ・・・お前の技の切れは、すでにこの俺に近いと見ていいだろう・・・箱庭猟兵の歩兵段の免許皆伝だな」
「本当ですか?! ありがとうございます!・・・それじゃ、いよいよ次の段階の知略兵段の鍛錬を学べるんですね?!」
少女はいかにも嬉しいという表情をする。
しかし、カーイツの顔は曇っていた。
「ルイシェ・・・お前は本気で知略兵段の鍛錬を学ぶ気なのか?・・・確かに知略兵となれば、他の浮遊都市に出向いて戦いを挑むことができるが・・・知略兵となる者がどんなことをするか、知らないわけではないだろう?」
「はい、知っています、カーイツ兄様・・・私ももう子供ではないですから!」
「・・・つかぬ事を聞くが・・・お前は、男と女の関係を・・・体験したことはあるのか?」
「いえ・・・ありません・・・だから・・・カーイツ兄様に・・・」
顔を赤らめて俯くルイシェを見てカーイツは内心の動揺を隠せなかった。
「それは!・・・お前・・・本気なのか?・・・」
しばし、二人は無言となった。
カーイツはルイシェが幼いときからの知り合いで、その後は、今までずっと師弟の関係だった訳であるが・・・
それを・・・ここで更に複雑な関係にしなければならない・・・カーイツは以前から心配していたことが現実となった今、心が大きく揺れ動き、千々に乱れていた。
「・・・確かに知略兵は男も女も必要だ・・・こちらから攻める場合はどちらでも良いが、もしいずれかの浮遊都市の知略兵級の男が多数攻めてきた場合に、こちらは防御することが難しくなる・・・しかし、お前はまだ若い・・・知略兵となって戦いに負けた場合も考えろ。負けてしまったら、その後、一生この真砂鉄王国フラゲルタンの庭園都市に戻ってくることができなくなるかもしれないんだぞ?!」
「・・・私がもし戦いで負けたら・・・カーイツ兄様が私に戦いを挑んで、私を負かして連れて帰ってください!」
ルイシェはそう言いながらカーイツの顔をじっと見つめたのであった。
二人は真剣な表情で見つめ合い、また双方無言になってしまった───
「カーイツの兄貴!一大事だーっ!」
だしぬけに、やや左上空に、今二人が居るところよりも二回り程小さい
「姫が!・・・キャレリリア姫が! 呪詛コードで目を覚まさなくなってしまったらしいんです!」
男の言葉に、カーイツは驚きの表情で立ち上がった。
「何だって?! ベータル! 姫が呪詛コードで目を覚まさなくなっただって?!」
「そうです! 兄貴! 箱庭仙人爺様の話に依ると、反磁力魔帝マグダネ・トネロンの仕業のようだと!」
「魔帝マグダネ・トネロン・・・五百余年続く恨みの連鎖は、まだ消えていなかったのか!」
カーイツはまさに驚愕した。
ここ四十年以上、反磁力浮遊帝国マグダネリアドとの間では、争い事はほぼ起きていなかったにも係らず───である。
「箱庭長老様から、急ぎ
そこまで言い終えると、ベータルの
「兄様! 急ぎましょう!」
ルイシェも両手の拳を握りしめつつ立ち上がった。
「よしっ!・・・フレード・リリック!! 箱庭のナビゲートを頼む! 行く先は
カーイツの声に箱庭の廻り回廊の入口から、正四面体が組み合わさった直径30cmほどの歪んだ球体が現れて応答した。
「了解しました。カーイツ様」
───そして、カーイツの
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