28 慰めになってないよ!

 彼女はピクニックという言い方をしたが、これはまさしく東部方面攻撃隊あげての公式な作戦行動だ。

 危険を伴う。


 万一、イコマの目や耳であるフライングアイが壊されでもしたら、イコマ自身にペナルティが科される。

 普通の場合なら一ヶ月間の使用禁止処置程度で済むだろうが、軍の行動に便乗していたことが罰にどの程度影響するか、不安がある。

 万一、厳しい採決がなされたら、思考起動時間の短縮もありうる。

 これは痛い。




「そうそう、パパ、すごいことになったんだよ」

 チョットマが目を輝かせた。

「会議で?」

「そう。どんなことだと思う?」

「見当つかないよ」

「顔を見せ合ったんだ!」

「へえ! 兵士にしては珍しいね!」

「そう! ハクシュウがさ、ヘッダーもスコープもはずして」


 ハクシュウが頭部の装備を外し、目や口元や素肌を見せ、リーダー連中もそれに倣ったというのだ。

「君は?」

「ンドペキ達がそうしてるのに、私だけがしないってわけにはいかないじゃない」


 ハクシュウは伍長達と絆を深めようとしたのだ。


「マスクは?」

「さすがに、それははずさなかった。でも、私の髪、皆に見られちゃったし、声も聞かれちゃった」

「それは良かった」

「恥ずかしかった」


 チョットマは、緑色で光沢のある髪をロングにしている。

 かなり目立つ。


「私さ、マスクとボディインナーはセパレートタイプ。ボディの中に髪を入れちゃうと、頭が動かしにくいから、髪を外に垂らしてるんだ。だからさ、見られちゃった」

「いいじゃないか」

「嫌なんだな。この髪の毛。政府の再生装置って、時々変になっちゃうでしょ。あれ何とかならないかな」



 再生装置は万全というわけではない。完全再生は約束されていない。

 似ても似つかぬ体が再生されるというほどではないが、時として、一つ目の人間ができたりするし、再生年齢もかなりばらつきがある。

 異形として再生された者は、兵士になって顔を隠す道を選んだりする。しかし、次回再生されるときにはまた戻っていたりするのだ。




 チョットマは、再生前の自分のことを全く記憶していない。

 政府の再生装置の不備を嘆いているが、実は前の容姿がどうだったのか、知らない。


 からかってやりたくなるが、チョットマは超の付く直情タイプの娘。

 記憶のことでからかっては失礼だし、本気で怒り出すかもしれない。



「大昔はさ、髪は女の命って言ったんだよ。君ほどすばらしくて珍しい髪は、昔なら高く売れただろうな」

「慰めになってないよ!」

 と、チョットマは笑った。


「声も気に入らないんだ」

 チョットマの声は、ニワトリが叫ぶときの声のようだ。高いけれども、甘い声ではない。

 特に、笑い声の甲高さは周りの者がびっくりするほど。


「そんなこと! 気にしてたのか?」

「気にするよ。だから、会議では一言も喋らなかった。喋る必要、ないけどね」


 チョットマは女の子なのだ。

 そう思うと、ますますいとおしい。


「僕は、今の君をとても好きだけど」

「へへ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る