3章 お花が咲いていたんですよ
27 ピクニック、行かない?
【前書き】
これ以降、回想シーンを含め、名称の表記が統一されます。
生駒延治 → イコマあるいはノブ
三条優 → ユウ
橘アヤ → アヤ
「パパ、明後日、ピクニック、行かない?」
「いいね!」
チョットマがいつもの椅子に座っている。今日は武装を解いている。
「どこに行くか、聞かないの?」
「どこに行くんだい?」
「街の北東約120キロ、アップット高原」
「ほう」
「実はさ」
チョットマが属しているニューキーツ東部方面攻撃隊総出で、サリの行方を捜しにいくのだという。
「会議は揉めたんだけど、隊長が押し切ったのよ」
会議は、街の南東に広がる、かつての大都市の跡で行われた。
今は瓦礫に覆われたその都市に、数百年前のアリーナ跡がある。
その残骸は広い空地となっているが、隊の拠点のひとつである。
敵が攻めてきても、広場の中央に陣取れば防戦しやすい。万一のときは、地下通路を通って他の地点に移動することもできる。
会議の出席者は、ニューキーツ軍中尉で東部方面攻撃隊長のハクシュウ、伍長、通称リーダーが四人、ンドペキ、スジーウォン、コリネルス、パキトポークの面々。
そして書記として、チョットマが選ばれていた。
「どう揉めたんだい?」
「ンドペキ達、いまさら現地に行ったところで意味はない、というのよ」
「もう十日ほど経ってるからね」
「そう」
中でも、スジーウォンが最後まで抵抗したという。
「どういう人?」
「どうって、んー、武闘派、かな。相手を倒すことに快感を覚えてる人」
「彼女、かな、は隊の中ではどういう役割?」
「個人的な、あるいは数人の戦闘では、もっぱら先陣で敵をバサバサやっつける役。隊の正式な軍事行動でも、スジーウォンの率いる隊は一番危険な位置ね」
東部方面攻撃隊、総勢三十八名。
五つのチームに分かれていて、それぞれに六名から八名の隊員が属している。
それを束ねているのがンドペキらリーダーと呼ばれる四人の伍長。
隊長であるハクシュウも、自分のチームを持っている。
隊員達の日常は、マシンを倒しレアメタルを回収するため、数人で作戦に出かけることが多い。
これは軍としての正式な行動ではない。
あくまで小遣い稼ぎという位置づけだ。
軍としての正規行動は、それぞれの部隊によって事情は異なるが、東部方面攻撃隊では十日に一度、全体行動を行う。
上層部である街の軍部からミッションが与えられることはない。ハクシュウを筆頭とするミーティングで決められる。
隊列訓練と称しているのは、決められた隊列を守りながら部隊全員で目的地までできるだけ戦闘を回避しながら進軍する行動。
また、戦闘訓練とは五つのチームに分かれて、戦闘を繰り返しながら、目的地で集合する訓練だ。
ほとんどの場合、日帰りの訓練だが、時には数日の遠征も行うという。
「東部方面攻撃隊はもっとも優秀な軍だそうだね」
そうよ、とチョットマは胸を張る。
「ハクシュウが頑張りやさんなんだよ」
チョットマはそういって隊長を茶化したつもりだろうが、彼女がハクシュウを尊敬していることは十分に感じられた。
「軍もなかなか辛いね。戦争がないのはいいことだけど、軍としての意識を保ち続けるのは難しい」
「戦争の経験なんてないよ。というか、人間相手に戦ったことなんてないし」
「うん、いいことだ」
「だよね」
「街の軍部がどういう組織なのか知らないけど、年に一度くらいは顔を合わせるのかい?」
「ぜんぜん。大体、トップの名前、知らないし。何人くらいいるのかも知らない」
「この街には攻撃隊は第五部隊まであるけど、合同の演習なんてものは?」
「へっ? なにそれ? まったくないよ。個人的な交流はあるかもしれないけど」
「つまり、君の部隊の規律というか、組織としてのまとまりというか、運営そのものは隊長のハクシュウの肩にかかっているということだな」
「そういうこと」
イコマは、そんな話をしながら、チョットマの申し出を受けるかどうか迷っていた。
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