9 あれ? これって恋?
花びらのようなジェネレーション……。
はかない年ごろ。
そう、私は十七のときから、そのまま。
でも、私の心にあなたが付けた痣は、日毎に大きくなっていく。
少しずつ形を変えながら。
サリとあなた。
心を揺らす、まぶしいシーン。
もう、私を構ってくれないのね。
大丈夫かって声を掛けてくれても、また行ってしまうのでしょう。
あの日、途方にくれた私を、一緒に来るかって誘ってくれたのに。
私の入隊をあからさまに嫌がる兵士に向かって、こいつは森の妖精かもしれないぞ、って言ってくれたのに。
そう、私の髪を見たことがあるのは、世界で数人。
もちろんあなたも。
私はいつの間に、恋をしたのだろう。
あれ? これって恋?
サリとあなた。
チャーミングで聡明で、頼りにされている彼女に比べて、私は無邪気なだけのおばかさん。
でも、うらやましくなんてないわ。
それは本当。
だってふたりは、私の大切な人だから。
夕闇が迫っている。
薄い雲が広がる空は茜色。
コンクリートに白い耐候性塗料を塗っただけの街並みも、この時間帯だけは少しだけお化粧をする。
いつもと変わらない人波。
あちこちから聞こえる、呼び込みの声。
食事はどう? いい席があるよ。
本当はせわしない時間帯のはずなのに、なんとなく、間延びした声。
そうだ。
パパが言うように、落着かなくちゃ。
でも、落着くって、どうすればいいんだろ。
こんな気持ちは、簡単には振り切れないよ。
「チョットマ」
突然呼び止められて、我に返った。
「そんな格好で、何を急いでいるんだい」
ひょろりと背の高い男が、ジェラートを売っている店の看板の脇に立っていた。
グレーのジャケットを着込んで、いかにも勤め人風。
マスクも付けず、浅黒い肌を見せている。
「その眼鏡で見ると、僕の体はどう見えるんだい? まさか素っ裸にされているんじゃないだろうね」
「えっ」
と、意識した瞬間、自動的にハイスコープのスキャナーのスイッチが入った。
男の表層が消え、肉体が浮びあがる。
同時に、非武装であることの証拠に、男の肉体の輪郭線が緑色に光り、全体が白っぽく透けて見えた。
あっ。
私、戦闘服のまま!
それに、いろんなことを考えながら、街中をわけもなく走ってた!
「そんなことは……」
チョットマは、あわてて裸眼モードに切り替え、なにか用なの、と言おうとした。
しかしその前に、男は既に背を向けて立ち去ろうとしている。
ちっ。
心の中で舌打ちをしたものの、気が変わった。
この若くてぶしつけな男は、いつも不思議なタイミングで声を掛けてくる。
街には数十万人が住んでいるはずだから、生活圏が一緒でなければ、そうめったに知っている人に出会うことはない。
チョットマが住むハンプット通りでは、隊の仲間とはよく出会う。
南門、つまりブルーバード城門の周辺に隊員達は住んでいるから。
サリの住まいも目と鼻の先。
しかし、この男は街の北部に住んでいるし、職場もそうだと言った。
そんなに簡単に、ばったり出くわすなんてことはないはずなのに。
男の名は知っている。
ハワード。
きざなポーズで名乗ったのは、もう数か月も前。
私を監視している?
たいしたことを話すわけでもなく、用件もない。
たいていは今のように、ひと言ふた言。
そしてプイと、どこかに行ってしまう。
ふん、なんなのさ。
チョットマがこの男に持っている印象は、ただそれだけ。
自分から何かを話したことなど、一度もない。
しかし、今回ばかりは聞いてみようという気になった。
こいつなら、もしかして。
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