第10話~来訪者~
「これが、パキラ?なんだろう……やっぱり王のレプリカだからかな?風格がボディから滲み出てる気がするよ」
森の奥の隠されたその空間は、外の樹木達から漂う香りとは裏腹に、とても機械的で無機質でした。
そして、新たに現れた大きな透明ケースの中には、裸体の女性が膝を折り曲げ、背中には沢山の管を蓄えながら、そのケースを満たす溶液の中で眠っていました。
「そりゃあそうよエンディ。DNAの設計図って馬鹿に出来ないくらいに優秀なのよ?」
ナミは忙しそうに妻達の創造作業の手を動かしながら、エンディに向かって偉そうな口振りでそう言いました。
「確かに。。でもナミ、そこは俺の管轄外なんだからさぁ、そんなに偉そうに言わなくても……って、ほら~~もう全然俺の話聞いてない!ナミの悪いの癖だぞ!」
エンディはクルクルとした、その癖のある茶色の髪を無造作にかきあげた後、相棒に向かってお手上げだと言わんばかりに、両手を天に仰いでみせました。
今日はホワイトの姿がなく、宮殿で様々な”キング”としての執務をこなしているようでした。
オリオンに来てから、エンディは様々なペテルギウスの情報を収集しては、ジュピターに送るスパイの任務もこなしていましたが【ホワイトの色々はジュピターの概念に近いものがある】最近はそう報告する事しかない状況でもありました。
「ホワイトって……オリオンのどこの星出身なんだろう……」
エンディはナミに語りかけるような、独り言のような。そんな区別がつきにくい音を口から零れさせた後、案の定それに全く気づかずに、カイネの創造に集中し続けている相棒を暫く眺めた後、部屋を出ていったのでした。
*
「ここでひとつ、提案なんだが……少し髪を触ってもいいだろうか」
ホワイトは、ナミの集中しすぎて血走った眼球と、連動したかの様にあちこちに飛び跳ねまくったオレンジ色の髪の毛を右手でそっと撫でつけながら、少し申し訳なさそうに声をかけました。
「もう触ってるじゃない……そんな改まってなあに??ホワイトがそんな事を言うなんて、あ!また弟子センサーが働いちゃったかも!?」
「はははは、それは是非教えてもらいたいものだ、この気持ちの名称とやらをね」
「えっとね……母性!!」
「母性??」
「本当は、ホワイトの見た目からしたら父性なんだけど……ホワイトには性別の概念がないし、分かりやすく言った方がいいでしょう?だから、やっぱりこの場合は母性ね!」
「なるほど……覚えておく事にしよう……」
ホワイトはそう言いながら、今度は懐から花で編んだ鎖を取り出しました。
「うわぁ素敵!!それは、どうしたの?」
「ここに来るまでに詰んできたのだ。ナミがあまりにも、髪を振り乱したままなものだから……」
ホワイトはそう言ってナミの背後に立つと、器用な手つきでひとつにまとめ、その花で編まれた鎖で器用に結びあげました。
「これで、少しは邪魔にならないであろう。髪の長さは同じくらいだというのに、ナミの髪は奔放すぎていけない」
「ホワイトって案外、乙女なのね……」
「乙女??それがつまり、母性という用語と同じ意味を持つのだね。覚えておく事にしよう」
「えっと……少し違うんだけど……このさいまぁいっか!!有難う、髪が目に入らなくて助かっちゃった!」
「ならば良かった。乙女になれて私も嬉しい」
「なんだか罪悪感が……やっぱりもう少しちゃんと説明をする事にす……」
ナミがそこまでを言いかけたその時、
実験室のドアをけたたましく開けたエンディが、転がり込む様に入って来ました。
「ふたりとも!!た、大変だよ!!」
顔面蒼白なその姿に、ただならぬ状況を察したホワイトは、まず星全体のチェックを始めました。
「なるほど、リゲルか……」
ホワイトはそう言うと、急いで宮殿に戻ろうとしました。
「一体どうしたって言うの!?」
ナミは不安気にエンディとホワイトの顔を交互に見ながら、胸の前で両手を固く握りしめました。
「リゲルにデータを頂きに行ってみたんだ。あの星の文明は最先端だしね、順調に交渉は進んでデータも頂ける事になった、そこまでは良かったんだけど……」
「宮殿上空に反応がある、つまり直接訪問してきたって事だね?エンディ」
「あぁ……最初は同じくらいのサイズだったんだ。なのに、いきなり巨大化してさ……俺の羽なんてお飾りみたいに思える程の羽を蓄えさせて、バッサバッサって」
興奮気味に話すエンディの言葉に頷きながら、ホワイトは自分が直接話をしてくると言い残し、部屋を出ていってしまいました。
「そ、そんなに巨大なの?そのリゲル星人って」
「あんなのが相手じゃ、そりゃ戦争も終わらないよ。元々の生体なのか、技術力の為せる技なのかは謎だけど、少なくともあんなの宇宙の脅威だよ」
「リゲルってペテルギウスの近くにある、あの青い星でしょう?噂しか聞いた事なかったけど、やっぱりさすがオリオンは、一筋縄じゃいかないわね」
「何を呑気な事を……ナ、ナミ!!後ろ!後ろの窓に!巨大な目がー!!!」
そう腰を抜かしたエンディに、促される様に振り向いたナミの目の前には、実験室である荒ら屋の小窓を覗き込む、大きなひとつの眼球がありました。
「ひ、ひぇーーー!!!ホワイト!!ホワイトは何処にいるの!!!」
するとその大きな存在が、小窓に息を吹きかけたのか窓が内側に勢いよく開くと、長いまつ毛を蓄えたその眼球が、パチパチと瞬きをしながら再度覗き込みました。
「ど、どなたですか??あたしは、えっと……ナミ……」
するとその眼球がにっこりと笑って、今度は自らの名前を語りました。
「初めまして♪私は、アーシャ♪」
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