第8話~契約~
しかしジュピターの申し子達は、奇想天外な発想をするものだ……
誰もいないその宮殿の一室で、ホワイトは溜息にも、または感嘆にも聞こえる様な大きな吐息を漏らすと、立派な玉座に身体をゆっくり預けました。
ナミとエンディがこの星にやってきてからは、単調に繰り返されてきた、半ば【義務】ともいえる【作業】とも言うべきプロセスの中に【楽しい】という感情が生まれたのは明らかでした。
この感情も既に十二分に満足なものであるが、その未知の感情である【愛の概念】とは、これをはるかに超える様なものなのだろうか……
オリオンに取ってプラスになると信じているものの、それは逆に作用しないだろうか……
ホワイトは統べる者らしく色々想いを巡らせると、その長い白い髪を揺らしながら、頭(こうべ)を横へと振りました。
その時はその時……
どちらにせよ、このままでは星団もろとも滅びていくのは目に見えている……
ゆえにこのチャンスを勝機に変えるのだ
ホワイトは今度は頭(こうべ)を、自分に言い聞かせるかの様に縦に数回振ると、こうしてはいられないという風に立ち上がり、またナミの待つ森の中へと向かって行ったのでした。
*
「はい、これがご所望のデータが入ったカプセルだよ」
赤色と青色で半々に彩られた小さなカプセルを、エンディは親指と人差し指で摘みながら、その右手をナミとホワイトに向かって、誇らしげに見せつけてきました。
「ひとつだけ?」
ナミはそのカプセルを受け取ると、辛辣な言葉をエンディに浴びせました。
「はぁ???ナミ……このデータはあの1番面倒な……いや、、大国のシリウス星から頂戴してきたんだぞ!」
「ふーん……まぁそんなのはどうでもいいわ。で?このデータの主の許可は頂いてるの?」
「あぁ勿論、えっとこれが契約書だよ」
エンディが腕にはめた端末のボタンを押すと、宙には沢山の文字が溢れ出しました。
「ふむふむ。。ちゃんとサインもあるわね、あと他のチェックはと……」
すると、黙って傍観していたホワイトが口を開きました。
「そんなにせずとも……そんな事をしたところで、強行に無効にしてしまえば、それは無かった事になる。そんな契約は最初からしない方がマシではないか」
「あーやだやだ!師匠はぜんっぜん!わかってないんだから」
ナミはオレンジ色の髪を、ボサボサになるのも厭わず両手で掻きむしりながら、ホワイトの前に仁王立ちになりました。
「ナミ……師匠呼びじゃなく、ホワイトで構わないと言ったはずだが……」
「じゃあホワイト!!逆に聞くけど、だからオリオンはこんな事になってるんじゃないの?」
「なるほど………それはナミの言う事に一理ある」
「一理はおろか、何千理もあるわよ!掟はとても大事なの。破る為に掟はある、それもまた正解よ?でも、だからこそ掟は必要なの、そこに君臨してないとダメなの!」
まくし立てるナミの姿に圧倒されながらも、その姿がおかしく思えてきたホワイトは、その場に立ち上がると、ナミのそのボサボサになったオレンジの髪を整える様に撫でた後、にっこりと微笑みました。
「あぁわかった……わかったからまぁ落ち着きなさい。それでエンディ、もう少し話を詳しく教えて欲しいのだが……」
エンディはそれに応える様に頷くと、早速端末のスイッチをオフにして、ホワイトの前にある実験の為のテーブルに腰をおろしました。
「このデータの主は、この星の王のものだよ。王と言っても、その星の形態そのものがほぼクローンで維持されてるだけだから、星そのものと言ってもいいのかも」
「シリウスの噂は常々耳にしている。それで?」
ホワイトは、さも早く続きを知りたいという風にエンディに急かす様に声をかけました。
「うん、王はとてもこの話に乗り気でさ。二つ返事でOKを貰ったってわけ。まぁ契約の条件としては、こちらの作製したレプリカのデータの提供が条件だけどね」
「まぁ、それはそうであろうな……それをして、果たして新たな争いの火種にならないだろうか……」
ホワイトがまた慎重な態度を見せると、ナミがまた声を荒らげました。
「はぁ~~~。。ホワイトっていつもそんな風で疲れちゃわない?そんな事やってみないとわからないじゃない、争いが起きたらその時は!」
「その時は?」
「全部食べちゃえばいいのよ!!」
あまりに突飛な発言に思わず吹き出したホワイトは、わかったわかったという仕草をしながら、その言葉を聞き流すと、またエンディへと顔を向けました。
「詳細はわかったよエンディ。じゃあそのシリウスの王のデータ、それを使って私とナミで最初の妻を誕生させる事にしよう」
ホワイトはエンディからそのカプセルを引き受けると、石で出来たトレーにそれをそっと載せました。
「うんうん、早速取り掛かりましょうホワイト!エンディは、次の妻候補のデータの契約に勤しんでちょうだいね!」
「はぁ~~人使いの荒い片割れで困る」
「ちょっとぉ!エンディそれどういう事よ!」
ふたりの言い合いにも慣れてきたホワイトは、壁になるかの様にナミとエンディの間に割り込むと、エンディに聞き忘れていた質問をする事にしました。
「ところでエンディ、その王の名はなんと?」
「あぁ名前??なんで?」
「妻には、同じ名をつけた方が良いだろうからね」
「確かにそうだね、名前は”パキラ”だよ」
「パキラ……」
ホワイトはその三文字の音の中に、色々を捜す素振りを少ししたかと思うと、早速ナミと作業を開始したのでした。
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