第7話~同士~



「挨拶の前に、ここにはどうやって来たのかを教えてもらいたい」


 ホワイトは目の前に突如現れた、この異国のナミという女性存在を目の当たりにして、困惑の表情を浮かべました。


「そんなの簡単よ。時空を切り裂いた、ただそれだけ。は?何?何か腑に落ちない事でもあるって言うのかしら」


 ぶっきらぼうな、それでいて上目線な口調での返答に、ホワイトは少し動揺しながらも言葉を返しました。


「いや……ここは突き止められないよう、色々を施していたものだから。なるほど、ジュピターのその想像を超える技術力、是非とも教わりたいものだ。挨拶がまだだったな、ペテルギウスの統括を任されているホワイトだ、宜しく頼むよナミ」


 ホワイトはキングらしい所作でゆっくりと、それでいて優雅に、その白い右手をナミに向かって差し出しました。


「な、なんだぁ~~あなたが噂の?あのキングなの??やだどうしよう……えっと……はじめまして!あたしの名前はナミ。今日からはあなたの弟子よ。よろしくね♪」


 ナミは、呆れ顔で横に立つエンディの顔を横目でチラチラと見つめながら、ホワイトの白い右手を力強く、ぶんぶんと大きく振りながら握り返しました。


 ホワイトは初めて見るその存在に、好奇心という感情を揺さぶられながら、ナミの華奢なそれでいて力強い右手に、されるがままになっていたのでした。


 *


「へぇ~~そんな計算式があるのね!初めて知ったわホワイト!!いや、師匠!」


 ナミは、ホワイトが羽のペンと皮で出来たノートに連ね続ける複雑な計算式を見つめながら、驚きの声をあげました。


「ホワイトで構わない。それにナミの事を私は弟子とは思ってはいない、同士と思っているのだから」


 森の奥の研究所で、ナミとホワイトはふたりきり、お互いの知識の共有をしながら、日々親交を深めていました。ホワイトはナミを通じて学ぶ事が可能だという、その【愛】の概念を知る日を夢みながら、最近はナミとの時間が単純に楽しくなってきていました。


「改造のやり方もだいたい理解出来たわホワイト。エンディの足の取り変えも、私が試してみてもいいかしら?」


 ナミは自信に満ち溢れた顔つきで、そうホワイトに尋ねました。


「エンディがいいなら構わないが」


「俺なら大丈夫だよ?」


 すると突如、声と同時に工房に現れたエンディは、微笑みながらふたりの傍に座ると、身体から生える大きな羽を身体の中へとおさめました。


「次は是非、そのジュピターの羽の技術も教わりたいもの」


 ホワイトは顎髭を擦りながら、今はもう仕舞われたエンディの背中をしげしげと見つめました。


「どうなんだろう、これは所詮機械で作られた装置にすぎないしね。ホワイトがこれに似た何かを新たに創り出した方が絶対良い気もするけど」


「うむ……また考えておこう」


 そうホワイトが言い終わるのを待ってましたとばかりに、今度はナミがエンディの両足をぺたぺたと触り始めました。


「なんだよナミ、くすぐったいじゃないか!」


 突然の行動にエンディが面食らっていると、気を留める事なくナミはその場に座り込むと、床に拡げられたノートに向かって、一心不乱に計算式を書き込み始めました。


 その今にも動きそうな文字に視線を落としながら、ホワイトはナミの傍らに同じく座り込むと、深い感嘆の吐息をこぼしました。


「ナミの吸収の速さには、正直驚きを隠せない。私が傍でサポートをするから、エンディの足の改造をやってみるといい」


「じゃあ決まりね♪」


「その前に!」


 ナミが早速、改造の準備を始めようとした瞬間、エンディが大きな声でその動きを制しました。


「どうしたのだ、エンディ」


「いや、折角だし?ホワイト、女性という種をこの星に誕生させてみない?その方が【愛】をいち早く理解出来ると思うんだ」


「なるほど。それは、どうすれば?」


「ホワイトの術と、私の技術の融合をさせる……でいいかしら?エンディ」


 ナミは、真剣な顔つきでセオリーを語り始めました。そしてそれは、果てしなくタブーな領域に足を踏み入れる事でもありました。


 *


「核か……」


 ホワイトは、そのセオリーの中に出てきた危険なワードに、少し顔を歪めました。


「この星が、星間戦争で使用された核でこんな状態になった事も聞き及んでいるわ。そして、その核となる鉱石が、豊富な星であるという事も」


「確かに。核は、莫大なエネルギーを生み出すものだが………それで滅びた星が後を絶たない。この星が星間戦争の対象外なのも、汚染が最大の要因なのだから」


「汚染からも護る事が可能な技術がジュピターにはあるわ?いえ、私にはあるわ。ホワイト、だからそれらを逆手に取りましょうよ」


「なるほど。ナミは自己肯定感の塊というわけか」


 ホワイトは、目を細めて微笑みかけました。


 確かにこの汚染されたペテルギウスにおいて、耐性が無いはずの他国の種族が平気で過ごしている事そのものが、ジュピターの技術力の高さを物語っていました。そしてそれは十二分に信用に値するものでもありました。


「核を使う事を、特別に許可しよう」


「ありがとうホワイト!では、最初の妻を生み出すわ。どんなタイプがお好みかしら?」


「妻とかタイプの意味が全く理解が出来ない。だから、ナミに全てを任せよう」


「わかったわ。私に任せて?」


 ナミは興奮気味にそう言うと、早速準備の為に部屋を走って出ていってしまいました。


 *


「いい事思いついた!」


 突如、大きな声で閃きの言葉を口にしたエンディはホワイトに提案を始めました。


「折角だしさ、妻は複数生み出して……他国の著名クラスのコピーにしちゃわない?」


「コピー?」


「オリジナルのソウルをスキャニングして、それを器に紐付けるんだ。そうすると、ホワイトの片腕にもなるし、【愛】も知る事が出来るし、良い事ばかりかなって」


「それは、いわばクローンと同じではないのか。クローンでしか種を残せなくなった他国の者を沢山見てきた。そして皆が必ず滅んでいった。そんな二番煎じに乗るわけには……」


「二番煎じなんかじゃないよ?クローンってのは、デメリットが多すぎる。でも、コピーである、レプリカは違う」


「レプリカ?」


「あぁそうレプリカ。ナミとホワイトが協力すれば、それは多分可能だよ?だから、やってみない?」


 ホワイトは、エンディの言葉に黙り込みました。そして不安と期待を天秤にかけた時に、期待への比重が高くなるのを、もはや止めることが出来なくなっていたのでした。

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