第6話~対面~




 弾力のある緑色の葉達。


 それらが擦り合う、単調なそれでいて細やかな多重音が降り注ぐ森の中を、ホワイトは力強い足取りでどんどん奥へと進んでいきました。


「待ってよキング!!」


 エンディは今にも泣きそうな声で、ホワイトの背中に向かってそう声をかけながら、自分の下調べの落ち度に反省し始めてもいました。


 というのも、ナミ発明のスーツで下調べを事前にしていた際、改造等を施す工房、つまり研究所は宮殿の中にもあり、そこがこの星の全てだと思っていたからでした。


(参ったな……おまけにここはテレパシーも使えないじゃないか……一体どうなってるんだこの星は、いやつまりこのキングのなせる技って事か……)


 エンディは森の入口で、すぐさまナミへのコンタクトを試みたものの、何かしらの結界が張られているらしく全てが弾かれ


 改めて、このホワイトというペテルギウスのキングに対して、畏怖の感情を持ち始めていました。


「ジュピターの種族はそんなに体力がないのか、それとも見た目でてっきり若いと決め込んでいたが違うのか、まぁいい。エンディ、ここがそうだ」


 森の奥の鬱蒼とした木々の中に突如現れた、異色な、華やかな宮殿と比べると見劣りのする荒ら屋。


 ホワイトはその入口に立つと、やっと追いついた、肩で息をしながらバテてしまっているエンディに向かって、呆れながらも説明を始めました。



「なんでわざわざこんな森の?それもこんな奥深くに?」


「ここは、どの星からも特定が出来ない結界を施してあるからね。エンディ、お前の様なオリオン以外の種族を招いたのは初だが、こう見えて私は慎重な性分なのだよ」


「つまり……場合によっては?消しやすいから?」


「その通り。まぁ存在自体を消す等の乱暴な事をした事はないから、安心をしなさい」


「ならいいんだけど……」


 エンディは顔を少し強ばらせながら、辺りを更に注意深く見渡しました。

 ホワイトもそんなエンディの姿に微笑みながら、荒ら屋の入口の扉を開けると、ふたりは中へと入っていったのでした。


 *


「もう!!何処に消えちゃったのよ!あたしの相棒は!!」


 ナミを乗せたカプセルは、オリオンのテリトリーにいくつかの空間の歪みを与えて到着をすると、真っ暗な宇宙空間の中で泡の様に漂っていました。


 ひっきりなしに繰り広げていると、噂では聞いていたオリオンの星間戦争。

 この場所はその最前線でありながら、その漆黒の空間は静寂そのもので、ナミは少し拍子抜けすらし始めていました。


「この一帯に生命体の反応は無いし……星間戦争自体が実はガセだったのかしら??」


 ナミは納得のいかない様子で、更に機器と睨めっこしながら、一帯の調査に着手し始めました。


「待って……まさかそんな……どういう事??ホワイトって一体何者なの……」


 ナミは踊る様に機器の上で弾ませていた指の動きを止めて、呆然としながら色々な思考を巡らせるのと並行して、ふたつの眼球を左右に動かし始めました。


「ここかーーー!!」


 そうナミは大声を張り上げた瞬間、漆黒の闇である宇宙空間の中から、カプセルの姿は忽然と消えたのでした。


 *


「外観がボロボロだったからさ、てっきり中もそんな感じなのかなって思ってた。何この装置達、こんなのジュピターにはないよキング……」


 荒ら屋からのイメージとは真逆の、とても発展した見た事のない機器達が並んだ工房内部の色々に、エンディは感嘆の溜息をひとつつくと、時を忘れたようにあちこちを眺めて周り始めました。


「そう言って頂けて光栄だ。さぁ早速、改造を始めよう。デザインはここから選んでくれたらいい」


 ホワイトは、柔らかな茶色いの四角い皮に色々なデッサンが描かれた分厚い束を持ってくると、エンディが見やすい様に向けて差し出しました。


「こんな見た事のない機器ばかりなのにさ、これはさすがに真逆すぎない?ホワイトってもしかして、布とか素材にこだわっちゃうタイプなの?」


「肌触りが良いものを、傍にひとつは置いておきたいだけだ。無駄口はいいから……さぁ早く選ぶといい」


 エンディはそのずっしりと重い束を両手に抱えると、ゆっくりひとつずつに目を通し始めました。


「この……ケンタウロス?これにするよ。俊敏な足で宇宙空間を走り回ってるの、密かに憧れてたんだよね」


「いいだろう……では早速取り掛かろう」


「ま、待って!!」


 エンディはホワイトの言葉を遮ると、真っ直ぐな瞳でキングの顔を見つめました。


「その前に、キングに紹介したい人が居るんだ」


「紹介??」


「あぁ、名前はナミっていうんだけどね」


「ナミ………?」


 エンディはナミはジュピターの科学者である事、繁殖における、種族を生み出す女性という存在である事、愛という概念を知る為にはこのナミと関わる事が最短で最善だと思っている事などを力説してみせました。


「なるほど。交流をしながらお互いの知らない様々な”ちから”や”概念”を伝授しあうと?」


「さすがキング!話が早いな。それでね、出来たらナミに俺の改造をしてもらいたいと思ってる」


 ホワイトは長い真っ白な髭を、同じく真っ白な手でゆっくりと撫でながら、暫く考え込みました。


「つまり、ジュピターはそこまで慎重な種族という事か。面白い思考の組み立て方をするものだ。なかなかに新鮮で斬新。いいだろう……そのナミと会う事にしよう」


「ありがとうキング!!えっと、じゃあ1度宮殿に戻ってもいいかな?ここからだとコンタクトが取れないんだ」


「その必要はないわ!!!」


 その瞬間、大きな叫び声が工房の中に響き渡ると、空間に歪みが出来はじめ、その歪みを切り裂く様に、オレンジ色の長い髪を振り乱したナミが現れました。


 さすがのホワイトも信じられないという表情を浮かべ、エンディは呆れ顔と驚愕の混じりあった表情で視線を送る中、ナミは大きな深呼吸をひとつしてから、笑顔でホワイトの目の前へつかつかと歩み寄っていきました。


「はじめましてキング。あたしはナミ、これから宜しくね」





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