第5話~ホワイト~

「この星に来客?オリオンの種族の中にそんな物好きがいるわけがあるまい」


 広間の玉座に座っていたホワイトは、家臣からの報告に、まず驚きの声をあげました。


「それが……遥か彼方の星団からの旅行者だとかで……如何なさいますか?ホワイト様」


「説明はいいよ!もう入ってきちゃったから♪」


 しどろもどろに応対する家臣の言葉を遮る様に、茶色のくるくるとウェーブのかかった髪を揺らせたエンディが広間に現れると、恭しくホワイトの前にかしづいてみせました。


「お会い出来て光栄です♪キング」


「お前は一体………」


「ジュピターの旅行者と言ったら、歓迎してくれる?」


 ホワイトはエンディの頭の先からつま先まで視線を何往復もさせると、長く蓄えた白髭を擦りました。


「本当の目的とは?」


 その言葉にエンディは小さく軽やかな口笛を鳴らすと、にっこりと微笑んでみせました。


「さすが♪何でもお見通しって事なら話が早いな。キングの技術力の噂はね、遠く離れたジュピターでも評判でさ、だから俺の改造の依頼に来たんだ。してもらえる?」


「それは構わないが……対価は?」


「勿論支払うよ♪じゃあさぁ……愛って概念でどう?悪い話じゃないと思うんだけど?」


 くるくるとした丸い瞳に強い光を帯びさせながら、上目遣いでホワイトを見つめたエンディは、愛についての概念をキングに向かって、詳細に語り始めたのでした。


 *


「面白い……つまり男と……その、女?という存在が居て、初めて繁殖が出来るというのか」


「勿論、分裂とか性別がない方が誕生は容易いよ?繁殖もやり易いしね。でも……だからかな?単調になっちゃう、つまらないでしょ?オリオンの人達ってさ。いつもいつも刺激を争いに求めるじゃない?でも、それは他の星団にはいい迷惑なんだよね、正直な所」


「確かに……、それは常々憂いてはいる……」


 ホワイトは玉座から立ち上がると、どこからか取りだしてきたグラスをエンディへと差し出しました。


 エンディは少し眉間に皺を寄せながら、恐る恐るそのグラスを右手で受け取ると、色々な角度からそれの観察を始めました。


「ジュピターの者は、そんなに瞬時に色々な思考を組み立てる程に慎重なのか。そんなに警戒せずとも大丈夫だから、安心しなさい」


 ホワイトは可笑しそうに微笑みながら、その瞬間、右手の指と指を重ね、パチンと軽快な音を鳴らしました。


「うわっっっ!!!」


 いきなり、手にしたグラスに透明の液体が注がれたのを認めたエンディは、驚いてそのグラスを思わず落としかけました。


「契約の証だエンディ、その飲み物に毒など入ってはいない」


 そしていつしか自分も液体が注がれたグラスを手にしていたホワイトは、その契約のドリンクを一気に飲み干してみせました。


「契約かぁ……不味くないよね?」


 グラスの中で小刻みに揺れるその液体を、不安そうに睨みつけていたエンディは、観念した様子でギュッと固く目を瞑ると、そのドリンクを一気に飲み干しました。


「お、美味しい!!!何これ、こんな美味しいドリンクは初めてなんだけど!」


「口に合ったなら良かった。まぁ、そうなるのが定められたドリンクだから、当たり前ではあるが……」


「そっか……つまりこの飲み物の方が、口にした者の好みに変化するって事なんだね、やっぱりキングは想像以上の技術者だ」


「そう言ってもらえて光栄だ。では、早速工房へ案内しよう」


「工房?それはこの宮殿の中にあるの?」


「工房は宮殿ではなく、少し離れた森の奥にある」


「森の……中に……」


 エンディは広間の窓から外の景色に視線を移しました。そしてこれから起きるであろう色々な出来事に不安を覚えない訳では無かったけれど、それすら覆い尽くしてしまう期待感で、気持ちが昂っていくのを感じずにはいられませんでした。


 *


「ニュウデン~ニュウデン~」


 その通知音に反応するかの様に、両手に持っていた工具を床に乱雑に放り投げたナミは、汚れた作業着の埃を数回両手ではらうと、額の汗を手の甲で拭いました。


 そして、チカチカと点滅を続けるその受信装置の前までやってくると、右手の人差し指でその内容のキャッチを始めたのでした。


「ふ~~ん。。あたしの相棒さん、なかなかに仕事が早いんじゃな~い?さてと……急がなくちゃ!」


 ナミはその瞬間、自分の寝室に駆け込むと雑に縛り上げていたオレンジ色の髪をおろし、作業着から、誰が何処から見ても、科学者にしか見えない王道のコスチュームに身を包みました。


「あ、そうそう。鉄板のアイテムを忘れる所だった」


 そして、ガサゴソとルームの端にある大きなオレンジ色のボックスに顔を突っ込むと、何やらを探し始めました。


「見~つけた!!」


 ナミは取り出した黒縁のメガネに数回息を吹きかけると、それを両手で持ち、ゆっくりと装着しました。


「こ・れ・で・完璧~~♪」


 ナミはご満悦な笑顔を浮かべると、今度は作業靴を雑に床へ脱ぎ捨て赤色の靴に履き替えると、颯爽と外へと走り出して行きました。


 外には今にも落ちてきそうな、手に届きそうな宇宙空間が広がっていて、ゴツゴツとしたエウロパの地の感触は、ナミの靴づたいにその感情を知らせていました。「大丈夫よ、すぐに還ってくるわエウロパ。じゃあ行ってくるわね」


 ナミはそう言って座り込むと、エウロパの大地を両手で優しく触れながら、唇でそっと触れました。


 ゴゴゴゴゴーーーッッ!!!


 轟音と共に大地がふたつに割れ始めると、中からカプセル型の飛行体が姿を現しました。


「待っててよエンディ!!そして、オリオン!!!しゅっぱ~~~つ!!」


 威勢の良い雄叫びをあげるナミを吸い込んだカプセルは、空間にいくつかの揺らぎを与えた瞬間消え去りました。


 そしてエウロパは、先程までの騒々しさが嘘だったかの様に、静寂で包まれたのでした。


 ⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆

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