第3話~心臓~
「なかなかこの新作スーツ、高性能なんじゃない?」
ナミから手渡されたスーツを手に取ったエンディは、満足そうに口笛を吹いて感嘆を表現してみせると、早速それを身に纏ってみせました。
「頭の先からつま先までスーツで覆われてるなんて、宇宙の生命体誰にも見破られたりしないわ!」
ナミは鼻高々に腕を組むと、最終チェックも兼ねてエンディの周囲をぐるりとゆっくりと周りました。
「ここに綻びがある。早急に直しといて」
ナミが背後に来た瞬間、右肩を左手の人差し指で2回指し示したエンディは、スーツのエラーを指摘しました。
「ホントだ……やっぱり試着って大事ね、アリガト、今すぐ直すわ」
ナミはそう言うと、2秒その綻びを凝視しました。
すると、ナミの両方の眼球に白い9つの円が現れ、そしてその集合体は右回りに円を描き始めると、そこから銀色の微粒子が放出し、その綻びの修復を始めました。
「オッケー♪これで、いけたはずよ!」
ナミは右手で軽くエンディの右肩を叩いてみせると、背後から覗き込む様にエンディの顔を見上げ満面の笑顔をしてみせました。
「で?このスーツ、核の汚染からの防護は完璧なの?」
「完璧よ♪それさえ身につけていたら全く問題ないわ。あ、待って………しまったー!!!」
「何だよ……急に大声出すなんてさぁ、心臓に悪いだろ!」
「心臓なんて無い癖に何言ってるのよ……待って、この回路を入れ忘れてたのを思い出したわ。ちょっと待ってて?」
ナミは自分の秘密道具が詰め込められた、オレンジ色のボックスの前に胡座をかいて座り込むと、中身にある何かを探し始めました。
「ガサツ女、もう少しさぁ上品に座りなよ。これで肩書きは【女】なんだもんなぁ……嫌になる」
エンディは呆れ口調で嘆きの言葉を吐くと、自分も胡座をかいて、ナミの横に座りナミの動向を見守りました。
「あった!!これこれ!」
ナミはボックスから3cm×2cmの小さな銀色の回路を右手の親指と人差し指で摘み出すと、エンディの目の前に翳しました。
「ナミ、これは?何?」
「これは、心臓よエンディ」
「心臓??」
エンディは意味が分からないまま、ナミに促されるまま、その回路を右の手のひらの上に受け取りました。すると、その銀色の回路は溶けていく様にスーツを纏ったエンディの身体に飲み込まれる様に吸収されていったのでした。
「うわ、何これ……」
「だから心臓だって言ってるじゃない、説明は省くけど。さぁこれで、完璧よ相棒。もういつでもオリオンに、ペテルギウスに乗り込めるわ」
「ホントかよ……じゃあ早速俺が先に、旅行者を装って予定通り潜入する事にするか」
エンディは、おもむろに立ち上がると準備運動よろしくその場で屈伸してみせました。
「そのスーツは”膜みたいなものだから、外見には響かないし、基本的にはずっと着用で問題ないわ。あと、ペテルギウスに潜入した後、暫くは透明になって、現地で情報収集した方がいいって総督が」
「総督から?俺にはそんな話無かったのに?」
「羨ましい~?昇格して、少しはナミ様も総督から認めてもらえたんじゃないかしら~?」
ナミは誇らしげに、にやついた笑みでエンディにそう言うと、次に自分の指をパチンと鳴らしました。
「消えた!??」
その瞬間、目の前からいきなり消えたナミに流石のエンディも驚くと、ルームのあちこちを探し始めました。
「やったわ!!大成功!!!」
「うわーー!!」
いきなり背後に現れたナミから両肩を鷲掴みされたエンディは、思わず叫び声をあげると、振り返って踵を返しました。
「何だよ!心臓が止まったらどうするんだよ!」
「止まったら?直ぐに電源をいれてあげるわよ。どう?驚いた?新作スーツには、透明モードも盛り込んでみたの。屈折を利用して、その場から完全に姿を消し去る事が可能よ?」
「なるほど………透明モードで潜入をして情報収集のその後にホワイトと接触、その後ナミを呼び寄せる筋書きって事?」
「えぇ、総督のプランはそうみたい。流石総督!」
「はいはい、ナミの総督推しは聞き飽きた」
「何よエンディ!私達、星のゴミクズを拾って育ててくれたのは総督だもん!恩人には最大の礼儀をはらうべきでしょ!!」
「はいはい。まぁ確かに、総督は育ての親だからね。総督の目的の為なら何でもするまでだ。じゃあもう、出発してもいい?」
「えぇ、コンビにはテレパシー領域と特権も与えて貰えてるから、出発したら思考共有のオンだけは忘れないでちょうだいね、私ももう今オンにしておくから」
「任務とはいえ、ガサツ女にずっとこれからは思考が筒抜けになるのかぁ………オエエェェ……吐き気が……」
「そんなの、こっちの台詞よ!!さぁさっさと行きなさいよ!!」
「はいはい。じゃあナミ、俺達の任務成功を祈って」
「えぇエンディ、あたし達の任務成功を祈って」
ふたりはお互い敬礼のポーズをして頷きあうと、エンディは、オリオンへ向かって旅立っていったのでした。
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