第2話~宇宙スパイ~




「はぁ~?ここまで来て、総督に会えないってどういう事なのよ!!」




 身体に密着した黒色のスーツ姿のナミは、昇格による新MISSIONの準備で、プルートー(冥王星)に来ていました。


 プルートーは太陽系の準惑星であり、星団における主要基地のひとつ。


 今までのナミでは、訪問すら許されないシークレットな場所であり、だからこそ今回その許可がおりた事で、大きな期待で胸を膨らませていたのでした。


「声がいちいちデカいんだよ、ガサツ女。いいから、座ってくんない?」


 黒色で統一されたその無機質なルームには、巨大なリングに似た白く発光するテーブルが中央にあり、ルームの割合のほぼを占めていました。


 そして用意された椅子に座る様、エンディに促されたナミは、お互いが向かい合う感じで、腰をおろしたのでした。


「総督は、今はジュピターから離れられないんだよナミ。それに、昇格したからといってそんな直ぐに総督と謁見出来るわけないじゃない……あぁ、ホント呆れちゃう」


 エンディは嘆かわしいと言わんばかりの最大級の表情をして、テーブルに突っ伏すと上目遣いにナミの事を見つめました。


「だってエンディ!!あなた総督の息子でしょう!?それくらい何とでも出来るのかなぁって、ち、ちょっと期待しただけよ!期待して……何が悪いって言うのよー!」


 ナミはオレンジ色の髪を振り乱しながら、テーブルを握りこぶしで叩きつけると、エンディに食ってかかりました。


「息子って言ったって……養子第1号なだけだよ?実子なわけじゃない」


「息子は息子よ!王子の肩書きはエンディと同じ孵化で誕生したってのに、私にはないじゃない!あぁ不公平!!」


 エンディはナミの愚痴に動じる事もなく、お手上げポーズをひとつすると、空中に浮かぶパネルに向かって優しく触れる様に指を走らせ始めました。


「ここは…………?」




 すると、無機質だったルームが一転し、臨場感のある何処か他国の景色に全てが変わると、ワープしたかの様な感覚に陥ったナミは、口をポカンと開けたまま、周囲をキョロキョロと見渡しました。


「ここはオリオンのσ星の景色だよ」


「確か……星間戦争の最前線だっけ?」


「その通り。で、この近くにあるペテルギウスって星がある。ここに潜入しろってのが今回のMISSIONみたい」


「了解♪じゃあそのペテルギウスの情報、スーツに今すぐ送って?丸ごとドカンとボディに取り込んでやるから!!」


 ナミがスーツの腕の部分にある小さな突起に触れると、黒色だったスーツは一瞬で銀色に変化をしました。




「了解」


 エンディは無表情に、宙に漂う透けたパネル画面に指を走らせながら集中を始めると、小さな四角い色とりどりの粒子が生まれ、ナミのスーツへと吸い込まれていきました。





「何なのこの星、見た事のない生命体ばかりいる。それに、ここでは戦争は起きてないのは、何故なの?オリオンなのに?」


「さすが、ナミ開発のスーツは凄い性能だね。時短で何よりだよ。じゃあ、送ったこのペテルギウスの情報を元に、少し解説するね」


 エンディは椅子に深く座り直すと、右手の人差し指で鼻の頭を2回かいてみせました。


 ルナは進行し始めた初のMISSIONに、段々緊張感の方が勝ってきた事に気づくと、軽く身震いしたのでした。




 *




 オリオン星団は、文明が発達した生命体が多数存在するテリトリーで、その昔はとても平和な時代が続いていたものの、時代と文明の発展と共に、縄張り争いが起こる様になっていました。


 争いの道具に、遂には核にまで手を出す様になった星々の種族達は、次々と絶滅していく様になり、核による汚染は、生命体の器にも異変を及ぼす様になりました。


 続々と誕生する変異体たち。


 様々な代償に胸を痛める星もあらば、逆にそれを戦に利用出来ないかと考える星もあり、負の連鎖は連鎖を重ね、戦の終焉はもはや、誰も見つける事は不可能な程になっていたのでした。


 そんな中で、ペテルギウスだけは異色の星でした。


 この星は特に天然ウランの鉱石がとても豊富な星で、星の住人以外の種族は近づくだけで蒸発してしまう事から、この星を戦争の脅威から遠ざけていました。


 そんな平穏は保証された星ではありましたが、宇宙から日々降り注ぐ放射能汚染は防ぐ事は出来ず、必然的にこの星も、影響を受けていく事になっていったのでした。


 ペテルギウスの王の名は、ホワイトと言いました。


 長い白髪に白く長い髭、皮膚の色も白いその真っ白な存在は、ゼロに還ってしまう種の色々に心を痛めながら、再生させる技術の開発に熱心な研究者でもありました。




 そして、最近は意識体を自ら生み出しては絶滅しかけの生命体を合成し、そこに意識を定着させる事で、星としての循環をさせる事に力を注いでいる存在でもありました。




 *




「大まかだけど、こんな感じ。どう?理解出来た?」


 エンディは説明を終えると、一点を直視したままのナミに声をかけました。


「だいたいわかったかな。で?総督からの命令の内容は何なの?ホワイトの技術を盗む事?」


「その通り♪」


「でも、汚染とかその他にも色々ハードルが高くない?」


「そこはナミの出番でしょ?」


「わかったわ。まずは汚染対策スーツの作製からとりかかってみる。ひとまずエウロパに戻っていい?あたし、寝床が変わったら眠れ無いタチなの」


 ナミはそう言うと立ち上がり、ルームを出て行こうとしました。


 その姿を見守りながら、エンディテーブルの上に両足を横柄に乗せると、立ち去るナミの背中に向かって、こう言葉を投げかけました。


「頼りにしてるよ相棒!さぁ宇宙スパイ、初任務のはじまりはじまり~」




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