ナミ~ルナ太陽系編~
豊 海人
第1話~ガサツ女~
その日ナミは研究所で独り、一心不乱に作業に明け暮れていました。
赤毛に近い、オレンジ色の長い髪を無造作に束ね、黒一色のシステムスーツに身を包んだナミは、ジュピター(木星)の衛星【エウロパ】に、たった独りで住む科学者でした。
エウロパにある研究室という名のその静かな空間は、様々なモノクロの機器やシステムで覆われていて、時折光る虹色のカラフルな色彩以外は、とても単調で、それでいてある種の美しさを放っていました。
「しかし、あいつら……どこまであたしの事を、こき使う気かしら」
額の汗を拭いながら、ナミは口に加えた部品をぶっきらぼうに床へと吐き捨てると、力任せに傍にあったハンマーで、目の前の台の上に乗せられたその物体を叩きつけました。
ガガーーッッ
火花を周囲に撒き散らしながら、台の上に乗るその物体からは、異様な機械音が鳴り始めました。
「まぁまぁ、今回は出来がいいんじゃない~?ナミ様のジュピターでの昇格がかかってんだから、さっさと機能してよね!試験ボディさ~ん!!」
ナミは更にハンマーでその物体を力任せに数回叩きつけると、無造作に役目を終えたそのハンマーを、今度は床へと投げ捨てました。
床の上を、リズミカルにバウンドし続けるハンマーはまるで、ダンスを舞っている様でもありました。
「さて……報告書を早速書かないと」
ナミはドスンと荒々しくその場に座り込み胡座をかくと、端末に向かってプログラムを一心不乱に打ち込み始めました。
そしてそのタッチ音は、誰も居ないそのエウロパの空間に、静かに存在感をしらしめたのでした。
*
落ちてきそうな真っ暗な宇宙空。
その暗黒の海から、誰もいないそのエウロパに向かってくる、1台のエアモビリティがありました。
研究所の中にひとつだけある、六角形の窓からそれを認めたナミは、慌てて端末から手を離すと外へと駆け出していきました。
「星の王子様が、直々にこんな辺境地にやってくるなんて、どういう風の吹き回し?」
着地した乗り物の前に、憮然とした態度で立ったナミは腰に手を当てながら、乗り物上の王子というその人物に声をかけました。
「何それ、王子様とかどうせ思ってない癖にさ。親父様からの伝達を、俺は相棒に渡しにきただけだよ?」
「総督が!?」
ナミは歓喜に似た叫び声をあげると、次の言葉が待ちきれないとばかりに前のめりに目を輝かせました。
「ナミ、あからさまに態度変えすぎ」
星の王子と呼ばれたその男性は、頭に被っていたメットを筋肉質な両腕で取ると、くるくるとした茶色いウェーブのかかった髪の毛、彫りの深い顔を顕にして、苦笑いの表情を浮かべました。
「だって!!総督からの伝言って事は……昇格か降格かのどちらかに決まってる!!勿体ぶらないで早く教えてよエンディ!!」
ナミは苛つきながら、エンディに詰めよりました。
エンディは、この太陽系を含む周辺星団を統括している王族の子で、普段は【51%】という部署に所属する軍人でもありました。
「こんなガサツな女が、自分自身の分身って事実が本当に腹立たしい。まぁ伝達というか、俺は親父様からの、正式な任命書を代理で持ってきただけだよ?それに通知なら、既にナミのメッセージBOXに届いてるはずだけど?」
「それを早く言ってよ!!!」
ナミはエンディの言葉を聞くと、研究所の中へと駆けていってしまいました。
「普通はそうじゃなくて、俺からの任命書を受け取るだろう??」
エンディはため息をつくと、自らも研究所の中へと入っていったのでした。
*
「昇格よ!エンディ!!ナミを【49%】所属とするですって!!やったわ!!!」
ナミは端末の画面を、両手で鷲掴みにしながら絶叫すると、両目に涙を浮かべながら、エンディの方へと振り返りました。
「これで、正式に俺とコンビ結成が出来るってわけだ」
「えぇ、今まではトリプルとか、クアドラプルとか、他%の分身さんに補ってもらっていたけど……これで晴れて!ツイン宣言が出来るわね!腕が鳴るわ!」
「お願いだから鳴らさないで?ナミはガサツすぎる。コンビを組むって事は、エネルギー爆発させる際は特に、シンクロ率が大事になってくる。今だと?」
「えっと……無理かも………」
「わかってたらいいんだけど。こっちも迷惑かけないから、ナミもかけないでよね。俺達の任務はあくまでも?」
「宇宙征服!」
「あぁ……これが俺と元のソウルが同じだなんてうんざりだ。征服じゃない、宇宙統一!」
「何それ……言葉が違うだけで中身は同じじゃない!」
ナミはオレンジ色の髪をかきあげると、仏頂面をしてエンディを睨みつけました。
「まぁいいけどさぁ……これからはコンビとして頑張ろうよナミ。で、早速だけどMISSIONも持ってきてるんだ」
「ホントに!?ワクワクしちゃう!早く教えて教えて!」
「おいおい、急かすなよ。MISSIONはオリオン星団の制圧」
「オリオン星団………?」
ナミも、辺境のエウロパの住人ではありましたが、オリオン星団における、星間戦争の噂は聞き及んでいました。そして、それも最近は激化していて、最近は核兵器による宇宙汚染が、近隣星団でも問題になっていたのでした。
「いきなり、最前線なのね……」
ナミは期待と不安と混ざったは複雑な心を弄びながら、まだ見た事のないオリオンを想わずにはいられませんでした。
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