第十八話:オトシマエ

 十三橋じゅさんばし香椎かしい


 久しぶりにFPO2エフピーオーツーでわたしと美雪みゆき、れいの三人揃が揃った。最近はログインだけして、ログインボーナスをもらうことはしていたけれど、あまり長い時間ゲームをしていなかった。けれど、美雪はこまめにやっていたらしく、随分とレベルも上がっていた。

『あ、ごめん。今日は落ちるね』

 集まってから一度だけクエストをクリアして戻ってきたら突然れいがそう言ってきた。れいは就寝時間をきっちり決めているらしく、いつも深夜零時には落ちてしまうのだけれど、まだ時計の針は二三時も回ってはいなかった。

『え?まだ時間早いけど』

『ちょっと急用が出来ちゃって』

 急用か。それなら仕方がない。ゲームは遊びで、楽しむものだから。実際の自分の生活を狂わせてまでするものではないと私は思っているし、れいの零時落ちもその一環なのだろうし。

『そか、残念。じゃあMyuミューどっか回ろっか』

 Myuは美雪のキャラクター名だ。美雪からミューという名にしたのだろう。名前の付け方が私とちょっと似ている。外見は耳が少しとがったいわゆるエルフ系の種族の小さな女の子でとても可愛らしい。衣装はまだデフォルトのままだけれど、少し時間をかければゲーム内通貨で色んな衣装を買うこともできる。

『そうだね。じゃあれい、またね』

『うん、fanaファナ、Myu、また!』

 手を振る動作のコマンドを入力してキャラクターを動かす。そうこうしている内にれいは私のモニタから姿を消してしまった。

『なんかホントに急いでたみたいだね』

『何かあったのかなぁ。プライベートのことはまったく話さないからね、お互いにだけど』

『そうだね』

 れいと知り合ってからもう結構経つけれど、お互いの詮索はしないという出会った時の話から、身の上話などは殆どしていない。だかられいというキャラクターを使っている人が、実際には男性なのか女性なのかも判らない。言葉遣いは中性的な感じなので、男とも女ともつかないけれど、わたしはれいの見た目から、女性として認識している。

『ま、大丈夫かどうかは今度会った時にでも聞いてみよ』

 ゲームの中での知り合いにできるのはその程度だ。深い入りはされたくないししたくない。

『うん。じゃあパーティー演習やらない?まだ条件クリアしてなくてアイテム貰ってないんだ』

『あ、そうなんだ。やろやろ』

 うーん、美雪もこのゲームにはまってるみたいで良かった。何にしても一緒に遊んだりできるというのは良いことだ。ついこの間まで一人で黙々とゲームをしていた私が言えることでもないのだけれど、そんな私だからそれが実感できる。

『うん、ありがと』

 ゲームのキャラクターでは見えないけれど(操作すれば笑顔も作れるけど、カメラをアップにしないと見えないし、別れのあいさつでそこまでする人はいない)、美雪の笑顔を思い浮かべて私はコントローラーを操作した。



 翌日、土曜の朝だ。昨日は美雪に散々引っ張りまわされてあちこちに冒険に出たものだから、一応目は覚ましたもののとてつもなく眠い。

「のあー!」

 欠伸をしつつ大きく伸びをして上半身を解す。うーん、やっぱり長時間ゲームをやっていると肩と首のこりとが酷い。お風呂にでも入ってゆっくり解そうかと思ったら、スマートフォンが机の上でブルリと震えた。

「ん?」

 wireワイヤーだ。しかもリンジくんから。珍しい。

「あ」

 そうか。ライブをする時以外余計な連絡をしない、とリンジくんは言っていたんだった。今となってはもはや不要の気遣いだし、今度しっかり言っておかなくちゃ。

 そしてその、特に用事がないときは連絡しないと言っていたリンジくんからの連絡。つまり。

(結構重要……?)

 スマホを手に取り、wireを立ち上げる。

『ライブの連絡じゃないけど、突然ごめんね。今日午後から時間空いてないかな』

「素気も何もないわね……」

 つまり、構っていられない、ということなのだろうか。

 ディスプレイを良く見ると、グループだ。美雪にも誘いをかけている。私はとりあえず、何も予定がない旨を伝える。

「空いてるよ、何かあるの、と」

 口に出して文字を打つ。すると美雪もこのグループに入ってきた。

『わたしも空いてるけど、どうしたの?』

 うん、美雪も空いてるみたいだ。まさか三人で遊びに行こうなんてことではないだろう。

『こんなこと、頼めた義理はないんだけど、ちょっと付き合って欲しいところがあって。や、率直に言うけど、病院にお見舞いに行きたいんだ』

「病院……」

 穏やかではない。でもリンジくんがお見舞いに行く人は私たちと繋がりでもあるのだろうか。そこが不可解だけれど、どうやらリンジくんは切羽詰っているのか、元からもったいぶった言い方をしたくはないのか、率直にものを言っている。私が何か訊けばきっと率直に答えも返ってくるはずだ。

 つまりこれは余り良い話ではない。それは確定だ。

『お見舞い?』

『誰の?』

 美雪のメッセージに続いて私もメッセージを打つ。

正孝まさたか君』

 誰だ。

『え、誰?』

 美雪も同じ反応だ。

 いや待って、男の名前でリンジくんの知り合い。そして私と美雪が関わったとなれば、思い浮かぶのは二人。そして一人は苗字しか知らないけれど、一人は名前しか知らない。つまり名前を知らない方。

『あ、ええと、羽原はばら正孝君』

 やっぱり。

『え、羽原君?』

『まさか事故でも起こしたの?』

 だとしたら最悪のタイミングだ。チームも抜けて、真面目に学校も通い出した矢先に。

『や、事故とは少し違うし、正孝君は被害者』

 良くはないけれど、それならば良かった。そして恐らくお見舞いに行けるということは。

『無事は無事なのね』

『命に別状はないみたいだね』

 ならばやっぱり良かった。起きてしまったことは仕方がないけれど、それでも生きていて、お見舞いに行けるほどなのだったら僥倖だ。

『じゃなければお見舞いにも行けないもんね』

『それもそうね。行くわ。何時にどこ集合?』

 冗談を差し挟んでいる余裕がリンジくんには無さそうなのも気にかかる。羽原君が被害者であって、お見舞いできるほどの状態であれば、安心はできるはずだと思うのだけれど。いや、だからと言って軽はずみな冗談を言うのも憚られる。リンジくんに余裕がない。wireの文字からという限られた印象な上に、リンジくんとはwireのやり取りを殆どしていないから、実際のところは判らないけれど。

『じゃあ午後一時に十三橋駅でどう?病院はお隣の七本槍ななほんやり市なんだけど』

『それなら七本槍駅の改札でもいいわね』

 どちらでも構わなかったけれど、私と一緒にいると余計な視線を集めてしまうこともある。少しでも、短い時間でもそんな視線に美雪もリンジくんも巻き込みたくない。仄に言うと一笑されてしまうけれど、それでもこれは私なりの、友達への気遣いだ。

『じゃあそうしよう。二人とも大丈夫?』

『えぇ、私は大丈夫』

『うん、わたしも』

 決まりだ。さっさとお風呂に入って身支度を整えなくちゃ。

『二人とも、ごめんね』

 やっぱり余裕は無さそうに見える。

『や、リンジくんのお願いとあればね』

『そうだね』

 できるだけ明るくなるように書いたつもりだけれど、イラストハンコも顔文字も使っていないし、所詮は文字だけの情報だ。あまり伝わりはしないだろうな。だから、後でしっかり聞かなくちゃ。ただ単に羽原君が怪我をして入院をしているという訳ではなさそうだし。

『じゃあまた後で。いきなりだったから色々省いちゃったけど、詳しいことは後で話すね』

『了解』

『うん』

 そして私は、自分の言葉の迂闊さを知ることになる。それにはもう少しだけ時間が必要だった。


 七本槍市 七本槍駅

 

 私も美雪も時間通りに七本槍駅の南口にある改札に集まった。

 私は少し、二人とは時間をずらしたけれど、約束の時間の五分前には改札に着いた。差し当たってお見舞いの品も買いたかったので、私は商店街のはずれにある喫茶店でケーキを買いたくてそれを提案したところ、二人とも手ぶらだったので、総意で喫茶店に向かうことになった。

「ところでリンジくん、羽原君の怪我の具合って?」

「ん、左肩打撲、右手首捻挫、左足首骨折、擦り傷は数知れず……」

 言い難そうに口籠ったような口調でリンジくんは言った。

「大怪我じゃない!」

「う、うん、まぁ……」

 オートバイで転んだにしても、相当な事故だ。でも事故ではないようなことを言っていた。まさか喧嘩だろうか。そうだとしても怪我が酷すぎる。

「それでも気持ちはぴんぴんしてるみたいだから」

「ってことは、入院自体ももう時間が経ってるってことだよね」

 なるほど。確かにその怪我だったら、昨日今日入院したとなると、お見舞いは出来ないだろうし。私たちが最後に羽原君に会ってから二週間は過ぎているから、もしかしたら私たちに会ってからすぐに怪我を負ったのかもしれない。

「そうだね。少なくともあと三週間くらいは入院生活らしいから」

「それは、退屈だろうねぇ」

 怪我は治る訳だし、精神的に滅入っている訳でもなく元気ならば、確かに身動きが取れないのは退屈だろう。

「そこで私たち、な訳?」

「い、いやいや、退屈凌ぎっていう訳じゃないんだよ」

 ま、冗談だけれど。

「ま、それはいいんだけど、リンジくん。その前に、怪我の原因は……?」

「……」

 そこで急にリンジくんが押し黙った。

「……これか」

 恐らくただの事故や怪我なんかじゃない。だからその扱いをどうするべきか、余裕がなくなるほどに悩んでいたのだろう。そして私たちが今日、呼ばれたことにもそれは関係しているのではないか。リンジくんの沈黙は私にそれだけの推測をかきたてるくらいには長かった。

「羽奈ちゃん?」

 押し黙ってしまったリンジくんと、美雪にとっては意味深であろう言葉を吐いた私に、美雪は訝し気な眼差しを向ける。

「リンジくんさ、ずっと余裕ない感じだったから……。もしかしたら、羽原君の怪我の原因、知ってるんじゃないかと思って」

「うん、まぁ……」

 やっぱり。

「暴走行為をしていて自爆、なんてことじゃあないのよね」

「うん」

 私たちはゆっくりと歩きながら、リンジくんの言葉を待った。

「……」

 程なくしてリンジくんは口を開く。

「引退までチームにいない、つまり中途半端に辞めようとするハンパ者には落とし前という名の制裁があるんだ」

「制裁?」

 たかが子供たちの集まりで、そんなことが有り得るのだろうか。

「そんな、ヤクザ映画じゃあるまいし……」

「そういう世界と少なからず繋がりもあるし、そういう世界に憧れてる子供の集団なんだよ」

 リンジくんは嘆息しながらそう言った。それはつまり。

「ばかばかしい!」

「だよね。僕もそう思う」

 私の怒りを誘う言葉だと、判っていたようだ。

「でも、色んなしがらみを断ち切るには、馬鹿らしいことかもしれないけど、けじめをつけて、男を見せるしかないんだ」

 リンジくんはそう言って苦笑した。

「ま、まさかリンジくんも……?」

「あぁ。僕もその儀式を受けた」

「……」

 それが報いだ、と言わんばかりの態度に私は苛立ちを募らせる。いや、苛立ちではないかもしれない。不安、焦燥、怒り。そんな思いが綯交ぜになっている。

「でも……それでもう、関係を断ち切ることは出来るんだよね」

 美雪が心配そうに言う。リンジくんはその落とし前とやらを付けて、今は元気にしている。だけれど、子供同士の集まりとは言え、チームの結束を破り、チームを裏切った報い。それがどれほどのものなのか、私には想像もできなかった。

「あぁ。それが約束だからね。それを破った者は、同じ目に遭う」

 だから、その落とし前を受け切った者が見せた男気を尊重し、或いは落とし前そのものに恐怖した者たちが、その約束を守る。あんな目に遭うくらいならチームを抜けるなんて言わない方が良い。あんな目に遭うくらいなら、辞めた奴になんか関わらな方が良い。それほどの落とし前なのだとしたら。

「骨折、捻挫、打撲……。もしかしてそれって、まだ軽い方、とか」

「軽いというか、相当に運が良いと言ってもいいね」

 けろりとリンジくんは言うけれど、私に誤魔化しなんか通じないと判っているからだろう。そして私の手は、じっとりと汗ばんでいた。

「……私の、せい」

「違う」

 すぐさまリンジくんは言う。

「でも!」

 私が羽原君にあんな説教地味たことを、私自身の嫌悪感から出た言葉で言ってしまったから。ううん、叩きつけてしまったから。

「決めたのは正孝君だ。そして、あんな馬鹿らしいことを、馬鹿らしい、って思えるようになった正孝君の成長だよ」

「だけど……!」

 それはリンジくんだから言えることなのかもしれない。リンジくんの言葉だから説得力があるのかもしれない。リンジくん本人が、自分の行いを悔いて、清算しようとして、けじめを付けたから。

 でも、私はそんなことなどまるで知らなかった。辞める、と言えば辞められるものなのだと思っていた。

「正孝君を促したのは、確かにハナちゃんかもしれない。だけれどその忠告の何が悪い?今まで散々人に迷惑をかけてきた報いだってあるんだ。連中に男気を見せるなんてくだらないものじゃなくて、自分を、今までの行為を、せめて自戒しなくちゃ、そのまんまじゃいられない、子供の僕らにはそれしかやりようがない、自分へのけじめでもあるんだよ」

 珍しくリンジくんの口調に熱がこもる。それは私に言って聞かせたい思いの表れだ、と判ってしまう。私が責任を感じないように、傷付かないように、そう言ってくれているのが、判ってしまう。

「納得は出来そうもないけど……。理解はした」

 だから、私は頷かざるを得なかった。辛い思いをしてきたリンジくんの言葉を突っぱねるほど、リンジくんのことも、ましてや羽原君のことも判っていない私には、それしかできなかった。

「正孝君もね、どうしてもハナちゃんと美幸ちゃんに挨拶したかったんだよ」

 全部けじめ付けましたんで、って?

 それなら羽原君だって判っていない。そんなものを見せられたって、立派だなんて、リンジくんから事情を聞かされていなかったら、言える訳がない。

「……じゃあ羽原君の行為に対してばかばかしい、とかは言わないようにするね」

「美雪」

 言ってやろうかとも思った言葉を美雪が否定した。それは羽原君の気概を汲んでの事なのだろう。変わろうとして、変わりたくて、中々変われなかった美雪だから言える言葉なのだとしたら、やっはり私は頷かざるを得ない。私が言ったことに対して、言われたことに対して、それを真に受けて、自分を見詰め直した結果なのだとしたら、それはわたしも見届けなくちゃいけないことなんだろう。

「羽原君が自分で決めて、それで色んな悪いものを断ち切って、ちゃんとなったよ、ってわたしたちに見せたいっていうことなんだったら」

 美雪は優しいな。私も、美雪のそういう優しさは少しでも見習わないといけない。

「納得も理解もしてやりたくないけど、よくやったって言ってやるしかないってこと?」

「だと思う」

 しっかり足を洗ったことを、立派だと。

 それは確かにそう思うけれど、だけれど、私が羽原君に何も言わなければ負わないで済んだかもしれない怪我だ。でも、それでもそうしたら羽原君は足を洗うこともなく、今まで通り、暴走族の一員として無差別に、色んな人に迷惑をかけていたのかもしれない。リンジくんからして見ればもしかしたら、羽原君を立ち直らせた要因の一つと思われているかもしれない。だけれど、治る怪我だから良かった、とは私には言えそうもない。

「……リンジ君もそうだったってことだもんね」

 それはそう、なのかもしれない。リンジくんの実体験を持った言葉なら。

「自慢なんて一つもできないことだけどね。だけれど、気付かせてくれた人がいて、気付いて自分でカタを付けて、良かったって思ってる。そうじゃなきゃハナちゃんたちとも出会えなかったし」

 尤もな言葉だけれど、それは結果論だ。それに、私の言葉が羽原君を追い込んでしまったことは揺るぎのない事実だ。けれど、それを悔やんでしまったら、羽原君の決意にも結果にも、水を差すことになってしまう。そういうことなのだろうか。

「だから羽原君はリンジくんに対してあんな感じだったのね……」

 男気を見せてチームを去ったリンジくんに、リンジくんのことを知るチームの人達は一目置いている。もう一人いた栄吉えいきち君はリンジくんのことを知らなかったようだけれど、確かに羽原君はリンジくんを尊敬しているように見えた。

「ま、まぁ、チームにいた頃から正孝君は僕に懐いてた、というか、好かれてはいたみたいだからね」

 そうなんだろうな。もしかしたらリンジくんがいなくなって歯止めが利かなくなってしまったことも、あったのかもしれない。全部推測の域は出ないけれど。

「私の言葉がきっかけで、羽原君に怪我をさせてしまったことは事実だけれど……」

 さっきリンジくんが遮ったけれど、これだけは、言っておきたかった。

「でも、名誉の負傷くらいにしか思ってないさ。何だったら、俺もレイジさんと同じ道を行くことにしました、って言ってたくらいだからね」

 苦笑してリンジくんは言う。本当にそうなら多少は心も軽くなるけれど……。

「それで、本当に足は洗えるの?」

 そうだ。羽原君は話が解る方だと思っていたけれど、栄吉君のようにまったく話が通じない人間に、その決まりのようなものは守れるのか、聊かの不安は残る。

「落とし前を付けてきっちりカタをつけた人間には関わらない。それが最低限の連中の仁義だからね。実際に正孝君たちが僕に絡んできたのはほんの偶然に過ぎなかった訳だし。ハナちゃんはあまり気にしないこと」

 ぽん、と私の肩に手を置いてリンジくんは笑った。畜生、なんだその優しい顔は。

「ん、まぁ、色々得心はいったけど……」

 私一人が責任を感じる事でもないのかもしれないけれど。

 あぁもう。判ったわよ。これは一つの教訓として私の心に刻み込んでおかなければいけないことだ。知らなかったとはいえ、軽はずみに何でも言って良い訳ではない。これは私の落ち度だ。暴走族というだけで相手を馬鹿にして、上から説教をして、その言葉が響いたのなら良かったけれど、こんな凄惨な事実が待っていることを知っていたら、きっと私は何も言わなかったかもしれないし、それでも言ったのかもしれない。

 可能性の話を引きずるだけでもいけない。今は目の前にある事実だけを受け止めて色々と考えなくちゃいけない。

「でもそれだけ、チームを抜けて落とし前を付けるっていうのは大変なことなんだね」

「まぁヤクザじゃないから指を落とすとかそんなことじゃないけどね」

 苦笑したままリンジくんが言う。でも、たかだか十代の子供たちがそれに似た真似事をしている。リンジくんや羽原君がそれを受けて立ち、乗り越えたのだとしても、やっぱりばかげているという思いは消えない。

(……そっか)

 それでいいのか。

 そういうことを判っていて、いや、最初は判らないままチームに入ったのかもしれないけれど、それでもそんな決まりがあるのならば、直ぐに知ることは出来る。もちろんそんなチームに入るくらいだから、そんなものなどに恐れをなす訳はない。それでもチームに入り、暴走を繰り返した。でも、何かのきっかけで、これはおかしいと気付き、そこから抜けるには落とし前を付けなければならないことは解っていて、覚悟を決めたのだから。

 私はそういう人たちに、言ってやる言葉があるんだ。

「袋叩きとか?リンチ?とか?」

 恐る恐る美雪が訊く。確かにその落とし前の内容は私も気にかかるところだ。

「僕の時は一人一発ずつ、手加減なしに殴って、四百メートルバイクで引きずり回されておしまい」

「……!」

 私と美雪は同時に絶句した。想像以上にとんでもない内容だ。時代劇ならばもはや死刑扱いに等しい。

「……それ、誰も死んでないの?」

「今のところはね……」

 それは運が良いだけなのではないだろうか。そしてそんな凄惨な内容を解っていて受けるとなれば、確かに男気を見せる事にもなるのかもしれない。一目置かれる存在になるのかもしれない。そしてそんな落とし前を受けてまで、チームから、暴走族から足を洗うなんていうことをする人間がいないのかもしれない。

 私にとってはばかげたこと以外の何物でもないけれど。

 だから、こう言ってやる。

「馬鹿なことに手を染めるから……」

 万感の思いを込めて、嘆息しつつ。

「まったくだね……」

 リンジくんの苦笑が、少し愁いを帯びて見えた。


 第十八話:オトシマエ 終り

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