第13話 合流
本日2回目のダイブ。まだ数時間しか使っていないのに家と移動先を行ったり来たりするとは思わなかった。すでに慣れ始めていると言えるだろう。
私は一度天井を見て、一息ついた。今、ここは自分の家で自分のベッドで仰向けになっている。これから向かう先は、とある建物の一室。不思議な感覚だが、もしかしたらこういった使い方がこのアーカロイドの本来の使い方で、近い将来二拠点生活が当たり前になるのだろうか。
私は目をつむると接続するためのコマンドを唱えた。
「アーカム・ダイブ!」
突如つむっていて暗い視界が、真っ白になった。複合施設の1Fフロアにある休憩部屋――ビジネスホテルの一室とも言えるプライベートルームの簡易ベッドで私は再び目覚めた。
体を起こし、あたりを見回す。私をここまで連れてくれた女性が置いていった机の上にあるカードキーの位置も寸分違わず同じだ。私が
さっきまでと違い、操作しているアーカロイドの動きも問題ない。良かった。どこまでモニタリングしているか分からないが、どうやら接続中の私自身の体の状況も検知しているようだ。
近い将来、やってくる技術にフルダイブ型VRというものがある。それはVR空間内に五感を接続して、意識全体をその世界に入りこませる技術でフルダイブVRでは、ユーザーは一般的なゲームで必要なコントローラーを使わない。現実世界で身体を動かすのと同じように、頭で考えることがVR空間内のアバターに反映させ、操作することができる。
フルダイブVRは「視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚」という五感すべてが、仮想空間へと没入することになる。調べるとネット記事には仮想空間への没入を実現するための要件というのもあったが、難しかったためそこまで深く読まなかった。だが、確かこういうことも書いてあった気がする。
五感すべてが仮想空間へ没入させ、その仮想空間を楽しむためには痛みなどの痛覚は消さなければならない。つまり、操作に必要な感覚以外をシャットアウトする機能がなければならない。
それは操作中、自分の体がどうなっているか分からないということを表す。つまり、長時間に及ぶ仮想空間内のプレイは体に影響を及ぼす。私のように空腹状態にも気づかない可能性がある。
数時間前、接続していた私自身の空腹状態を検知したアーカロイドは動作不良に陥った。戸惑っていたところ、たまたま近くを通りかかった女性の手助けでこの施設までやって来ることができた。
アーカロイドの姿だったので別の意味でも焦ったが――ともかく一度は緊急事態になったものの、何とかその状況を脱し、この部屋――プライベートルームを手に入れた私はある意味拠点を作れたとも言える。
だが、このプライベートルームは本来、一時的な休憩スペース。リモートワークをするためなど1日のみならまだしも、ずっと借りることはできない。
でも、今回のことで気づいたことがある。例えばアーカロイドでどこかに移動し、移動先のホテルで宿泊客として一室借りることができれば、アーカロイドをその部屋に滞在させて私は家にいながらそこを拠点にさらに移動することができるだろう。
ベッドから立ち上がり、上着のポケットにある携帯端末を取り出すと、いくつか通知が入っていた。その中には着信も入っていた。相手は――三輪さんだ。
不在着信以外にもテキストメッセージもありアプリを開くと、
『1時間前:今どこにいますか?』
『20分前:気づいたら連絡してください』
どうやら私が、接続を解除して家に戻っていたときに連絡が来ていたようだ。
とりあえず、電話しなければ。
連絡先から「三輪大輔」という項目を探し、コールボタンを押す。コール音が2回鳴ると、三輪さんはすぐに出た。
「あ、三輪さん。私です。連絡来ていたのに出られずにすみませんでした。一度アーカロイドの接続解除して、自分の家に戻っていました」
「良かった、繋がって。いいよ、気にするなって。じゃあ、今は家から接続してるんだね?」
「はい、今は家から接続しています。三輪さんは今どこに……?」
「NIKAMO(ニカモ)だよ。ここのショッピングモール新しいお店が入ったから前から行きたいと思っててね。それに今日はそのお店目当ての客が多いから、今の詩絵ちゃんが行っても大丈夫だと思って連絡したんだけど……ちなみに今どこにいる?」
「少々お待ち下さい。調べますね」
ニカモ……? 三輪さんは今ニカモにいるの? というか、それどこ?
あまり私は、日頃外に出ないので近所だとしてもお店の名前には少し疎い。今の時代、ネット販売が充実しているので大抵のものはそのお店に行かなくても購入することはできる。
とりあえず、通話を切らずにスピーカーの状態にし、自分の現在地を地図で調べると、なんと自分も同じところにいた。
地図上には、『コネクト
『……我々
名前の3つのVはどうやら、技術・製品価値創造(Value Creation)、価値実現(Value Delivery)、価値利益化(Value Capture)の価値創造の3要素を表すVのようだ。
へぇ。なるほど。それで私が今いる部屋とかも、フリースペースとして一般向けにも無料で貸し出しているわけね。
私がNIKAMOに感心していると、もしもし詩絵ちゃん?、という三輪さんの声が聞こえてきた。
そうだった。私がホームページに夢中になっている今も、通話は繋がったままになっているんだった。
「すみません三輪さん、私もちょうど今NIKAMOにいます、どこかで合流しましょうか」
「おお、そうか!……そうだな、今は新しいお店は行列ができていて入れないからな……。じゃあ、2階のスタバ来れる?そこで待ち合わせしよう」
「いいですけど、私飲めませんよ……?」
「いや、アルコール類はないから詩絵ちゃんも大丈夫だよ」
そういうことじゃないんです、三輪さん。
「……今、アーカロイドだから飲めないんです!」
「ああ、そうか。そうだったね。アーカロイドだと飲めないのか。いやぁ、すまんね。というか、そういうところは不便だね」
「ほんとですよ……。さっきも私、お腹空いて散々な目に
「え、そうなの?あとでその話を聞くとして。とりあえず、スタバ前で合流しよう」
通話が切れる。一旦、この部屋を出よう。私は使用したベッドのシーツや、毛布を整えると、机の上にあるカードキーを持って部屋を出た。
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