第4話 アーカロイド
ピンポーン。
私は玄関のチャイムを鳴らした。いつもならすぐに中で足音が近づいてくるが、そんな気配はなさそうだ。 もう一度鳴らしてみたが、結果は同じ。家の中には誰もいない、という雰囲気がする。
タイミングが合わず、すれ違ったかな?けれど、先ほど――三輪さんから15分ほど前に連絡をもらってから返事をしてすぐにこちらへ向かったのでその間に出かけてしまうはずはない。
もしかしたら……と私は裏庭の方に向かう。 勝手に中に入ってしまうのは申し訳ないが、呼ばれているので致し方ない。裏庭にも作業小屋のようなものがあるのは以前訪れたときから知っている。
玄関から横に伸びる小道を通ると、それはあった。 その作業小屋には特に扉というものはなく、すだれが常にかかっている。私は、すだれを避けるように中に入っていった。
「こんにちは。三輪さ〜ん、来ましたよ!……って―― おおぅ、それが噂のものですか?」
「やぁ、詩絵ちゃん。いらっしゃい。来てくれてありがとね。うん、これが例のものだよ」
やぁ、と手を振り返してきた三輪さんは少し髪がボサボサで疲れ切ったような顔をしていた。
「どこかお疲れのようですね。……お疲れさまです。研究のほうも大変なんですか?」
「心配ありがとう。原因はこれさ。例のものに少し手こずっていてね」
三輪さんが手を指し示した先――私の目の前には大型家電かと思ってしまうほどに大きな装置とその中には肌色のマネキン人形があった。それは人の丈くらいあるダンボールから出されたばかりのようで、まだ包装紙にくるまれていた。確か、さきほど三輪さんから届いたメッセージには機械の試験運転をしてほしい、と書いてあったが……。それはどこに? それに三輪さんからは予備の服も一着用意するよう言われている。これでは――。
「ん?それ、マネキンですよね。そのマネキンでファッションショーでもやるんですか?」
「いやいや、これが連絡した例の機械さ! やっぱり僕と同じ感想を持つんだね。たしかにそう見えなくもないが実はとんでもなくすごいものなんだ」
三輪さんは大ぶりに手を動かし否定した。私のいった率直な感想にとてもおどろいていた。予備の服と目の前にあるマネキンではファッションショーをやる以外に思いつかない。これが機械だとしてもまだ信じられない。当の三輪さんもこの機械を初めてみたときは私と同じようにマネキンと思ったようだし。どこからどう見ても服屋さんでみかけるマネキンにしか見えない。近づいてよく見てみると、肌がきめ細かい。肌触りも人の肌と同じ感触だ。これはいったい……。すると、三輪さんは口を開き私の疑問に答えた。
「これは私の師匠、旭川博士が発明したものだ。彼はとある技術の開発に成功したらしい。僕もまだ実際に動かしていないからよく分かっていないが、ドローン技術の応用、人の意思で動かすドローンのような人型ロボットだ。正式名称をUnmanned Humanoid Remote Control Machine(無人人型遠隔機械)――略してUHRCoM (アーカム)だ」
「あ、アーカム!?その前の英語の部分はなんて言ったんですか? あん、まんど?もう一度お願いします……!!」
「アンマンド・ヒューマノイド・リモート・コントロール・マシーン。日本語で言うと中には入らず無人で、外から動かせる人型遠隔機械だ。この英語は覚えなくていいよ」
呪文のような英語をペラペラと言ったように思ったが、2回目でゆっくりと聞くことができ、区切って意味を繋げていけばとりあえずは理解できた。
三輪さんに博士からのメールを見せてもらい(前文長すぎ)、おおまかな説明を聞いた。未だ信じられない話だが今は一見、ただのリアルなマネキンに見えるが、これに接続すればこの大きな装置の中で使用者と全く同じ姿に変化するという。
もし博士からのメールに書いてあった内容が――この技術が本当なら三輪さんが言うようにこの世にはない未知の技術。使い方次第では世界を揺るがしかねない。
私は今、そんなすごい体験に立ち会っているんだな……実感わかないけど。
百聞は一見にしかず。詳しいことは実際に動かして確かめよう。そのために今日私は呼ばれたのだから。
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