第7話 後悔
先述した通り、僕は彼女、矢崎真央をいじめていたことがある。
今では後悔しきれないぐらい後悔しているが、なぜか当時はそれを快感ととらえてしまっていた。
一つ昔話をしよう。
桜の木が咲き誇った歩道に二人の男女がいた。名を矢野慎太郎と矢崎真央という。
二人は仲良く下校していた−−
わけもなく、矢野が矢崎をいじりながら下校していた。
「やあいやあい!!!」
「やめて!」
矢野は水筒の水を矢崎にかけていた。
矢崎は嫌がっているが、気にせず水をかけていた。
矢野は不快感やその類の感情は一切わかなかった。ガキとは自制心を抑えられない生物である。自分を制御するどころかむしろ開きっぱなしだった。
矢野は矢崎に対するいじめをやめることを知らなかった。
矢野はなぜ矢崎をいじめているのか。矢野が特別やんちゃだったからではない。矢野以上にやんちゃな少年は数多くいる。
――矢野は矢崎を好きだった。
しかし矢野は矢崎を好きという気持ちを気付くことができなかった。でも近づくと胸の動悸が激しくなってしまうのだ。それを避けるために出した「あっちいけよ!」という言葉に救われたような気がした。
好きという気持ちはまだ証明されていない。そんな不明確なものに振り回され、矢崎に優しくできなくなっていた。優しくできなくなっていたどころか、だんだんと激しさが増し、いつしか誰もが認めるいじめとなったのだ。
快感というのは好きという気持ちの裏返しであったことを矢野自身も知ることはなかった。
僕は時々このことを思い出す。月日が過ぎる中で、このことを後悔するとともに彼女の恨みを怖がっていた。
彼女は確実に僕のことを恨んでいる。そしていつか僕に仕返しをしてくる。それを僕は考えていた。いや今も考えている。彼女は恨んでいるから確実に付き合っている状態だったとしても、何かしてくるはずだ。その可能性を危惧し続けている。
「おはよー!!」
彼女は突然扉の外から話しかけてきた。
「うん、おはよ」
「今日は目玉焼きだよ~」
「ありがとう」
彼女への感謝は絶対に忘れないように、自分の後ろを自然と気にかけている。
これは後悔からなのか、彼女の仕返しを心配しているからなのか。その問いには自分でも答えられない。ただひとつわかるのは、
――今日も彼女が好きだということだ。
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