第6話 友人
僕には唯一の友人がいる。いや悪友と呼んだ方がいいかもしれない。彼には小学校の頃からたくさん振り回されてきた。
彼は僕とは違う世界に住んでいる。サッカー部で顧問からも好かれており、成績も優秀。
普通に彼と接している人から見れば非の打ちどころがない人間なのだろう。
だが、彼と話していくとそうでもないことに気づく。
ある日の放課後、窓を伝う水滴が悲しそうに落ちていく。この日は予報外れの雨。傘はもちろん持っていない。そんな僕を横目に雨はやんでくれない。気づかないうちにあたりが暗くなり、流石に帰るかと思っていた矢先、
「おい。まだいるのかよ。あんま外気に晒されてると風邪ひくぞ。」
部活終わりなのか、制服に身を纏いながらもどこか湿り気を感じさせる彼が僕の後ろに立っていた。
「そうだ。なんか悪いか。」
「傘だ。ほれ使え。」
彼は僕に傘を差し出した。しかし、僕はもう知っている。彼がほいほいと傘をやることはない。
「どうせ、ただの傘じゃないんだろ?」
「いや普通の傘だって。」
「そうか。じゃあ開くわ。」
僕は呆れたように傘を開いた。しかし、流石の僕でも警戒心はあるので上に開かず、下に開く。
「ダメだって下に開いちゃ。」
「いやいや仕込むお前が悪いだろ。」
案の定、傘の中には銀紙が細長く切られた物体が敷き詰められていた。黒い傘のせいで、透けるはずもなく、普通の人ならばその悪戯を喰らうだろう。
その後、家に帰ると彼女は玄関にやってきた。
しかし、どこか見慣れない。そう思っていた。
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
「おい。誰に仕込まれた?」
「五味くん」
「うっ、、」
五味くんとはさっき紹介した友人の名前である。
五味と僕が幼馴染なら、五味と矢崎も幼馴染である。特別仲が良いわけではないがすこぶる話す程度には関係は良好で、付き合ってることも同居していることも話している。
本当は話したくはなかったが、勝手に彼女が五味に話してしまった。
五味が「お前、矢崎と一緒に住んでんの?」って聞いてきた時は流石にビビったが、そこから二ヶ月経っても何もしてこなかったので、安心しきっていた。
しかし、今は話が違う。彼女がメイド服で迎えてきたのだ。
自然と赤らむ自分の頬に手を置きながら、五味に教えたことを後悔したと共に、喜んでしまった自分もいた。
「寒くないか?」
「大丈夫。恥ずかしいけどこれはこれでオッケー」
「僕がオッケーじゃないからやめてくれ」
「、、、はい」
その後気まずくなって話せなくなったのは言うまでもない。
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