第29話 助けたい気持ち

2人が争っている中、第一演習場には先程隆弘が呼んだ

救急車が到着していた。

駆けつけた救急隊にしゅんと隆弘が事情を話すと、レナの状態を確認してからすぐさま病院へと搬送して行った。


「とりあえずは一段落ってとこだね」


「ああ、全く面倒なことになったよ。

そもそもあいつが勝負を引き受けなきゃこんなことにはならなかったのによ」


すっかり帰りが遅くなってしまった上に、レナの対応まで押し付けられたしゅんは不満気に言った。


「それじゃあ、一条さんの様子も見に行こうか」


「はぁ?本田も付いてたんだし、別に大丈夫だろ!」


「とか言って、本当は心配なんでしょ?」


「何言ってんだよ!心配じゃねーから」


「試合まで止めようとしてたくせにさ!

早く行こうぜ」


全く素直じゃないなと思いながら

隆弘は医務室へと向かう。

内心かなり心配していたしゅんも、めんどくせーと呟きながら隆弘の後に続いた。


2人が医務室へ着くと、そこには既に優美はおらず

もぬけの殻だった。


「あれ?誰もいないや。一条さんもう家に帰ったのかな?」


「何だ元気なんじゃねーかよ。俺たちも帰ろ‥!?」

気だるそうに話すしゅんだったが、何かに気づいたのか

会話をやめた。

床に落ちている薬の入った瓶を見つけたのだ。


その瓶を拾い上げると、表情が固まる。


「おい、どうしたんだよしゅん!」


「なぁ加藤。たしか一連の異様な魔力の発生は

薬によって引き起こされたものだったよな?」


「う、うん。そうだけど‥」


「こんなのあったんだけど‥」

そう言うと、拾った瓶を隆弘に見せた。

それを見ると、隆弘の方も表情が険しくなる。


「わずかだが、福田や水上の時と同じ魔力を感じる」


「ここに一条さんを連れてきたのは本田先生だったよね?」


「ああ。だが現状2人ともいないときてやがる。

これは少しヤベーかもな」


「ここにくる途中駐車場を通ったけど、本田先生の車は

まだあったよ。多分学園内にいるんじゃないかな」


「チッ、めんどくせーな」

血相を変えて、しゅんは医務室を飛び出して行く。


「ま、待ってよ!」

隆弘も走り出すしゅんの後を追いかけて行った。


医務室を飛び出し、ひたすらあてもなく走るしゅん。

それを隆弘は後ろから全力で追いかけ大声で呼び止めた。


「しゅん!一回止まってよ!」


隆弘の必死な呼びかけにしゅんはようやく足を止めた。

「何だよ、加藤。お前に合わせてる時間はねーぞ!」


しゅんが止まりようやく隆弘は追いつく。

そして、呼吸を整えながらゆっくりと話し出した。


「しゅんは一条さんがどこにいるか分かるの?」


「それは‥分かんねーけど」


「この広い学園をただ闇雲に探したって

それこそ時間の無駄だよ!」


先程の試合でダメージを負っていた優美のことを

考えると、いてもたってもいられなかったしゅん。

しかし隆弘の言葉でようやく冷静さを取り戻した。


「じゃあ、どこを探せばいいんだよ」


「とにかく一度整理してから考えよう」


「分かった」


あまり悠長に話してる時間は無かったが、しゅんは一先ず

隆弘の話を聞くことにした。


「状況から見て、一条さんはあの瓶を見てきっと本田先生が

一連の犯人だって気づいたんだと思う」


「ああ、あの瓶からは福田や水上から感じた魔力があったからな」


「きっと先生も自分の正体が一条さんに気づかれたことが

分かったんだよ。

だけど、何で医務室を出る必要があったのかな?」


「そういやそうだな。その場で始末することも出来たと思うが‥」


「一条さん程の魔道士を倒すのは簡単なことじゃない。

その間に魔力を感じ取って誰かが駆けつけてくるかもしれないしね」


「ああ、そんな魔力使ったらここの生徒なら誰でも

気付くだろ!」


「でも今はそんな魔力は感じない。

2人がまだ校内にいるとすると、魔力が外にもれないような場所にいるんじゃないかな」


この言葉にしゅんはハッとしたような表情を見せる

「‥演習場か!」


「そう。しかも俺たちがいた第一演習場以外の

残り4つ。このどこかに2人はいるはずだよ」


「お前、探偵かよ」


ただ走り出したしゅんとは違い、隆弘は全く慌てることなく

冷静に答えを導き出した。

この様子にしゅんは本当に同い年なのだろうかと疑う程だった。


「とりあえず手分けして探そう。俺は第二と第三を

見に行くから、しゅんは第四と第五をお願い」


「分かった。見つからなかったら

すぐに残り2つの演習場に駆けつける!」


そう言うとしゅんは再び走り出した。


「多分、1番遠い第五演習場だと思うけどね。

気をつけてよ、しゅん」

走って行くしゅんの背中にそう呟くと

隆弘も第二演習場へと向かった。

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