第26話 3錠の薬
手に出した薬を見つめながら、レナはしゅんのことを考えていた。
それは4月の初めごろ、レナがまだ入学したばかりの時だった。
友達もまだおらず、1人で家に帰っていた時
近くにある普通科高校の生徒を
同じケセームの先輩がカツアゲしているところを見てしまう。
魔法を専門に学ぶ私達が、普通の学生より力があるのは当然だ。
だからこそ、魔法をそのような使い方をしてはいけない!
そう思っていた。
助けなきゃいけない‥
しかし、レナは足を動かすことが出来なかった。
怖くて、見ているしか出来なかった。
そこにやってきたのが同じ1年生のしゅんだった。
「おい、何やってんだよアンタら!」
「あん?何だよ一年かよ。痛い目にあいたくなかったら
さっさとうせ、ぶはぁーー」
先輩が喋り終える前に、炎の魔法で蹴散らしてしまっていた。
上級生に全く臆することなく、当たり前のように見ず知らずの高校生を助けたしゅん。
この姿にレナは心から惹かれたのだった。
それから仲良くなりたいと思い、積極的に声をかけたりもしてみたが
結局振り向かれることはなかった。
たがら余計に、転入して数日で、しゅんと親しくする優美を許せないでいた。
「一条優美‥あなただけには、絶対に負けない!」
レナは、握っていた錠剤を口に放り込み一気に飲み込む。
すると、一瞬にして自分の中に強大な魔力が流れ込んでくるのを感じた。
「すごい、こんな力今まで感じたことない‥これなら、いける!」
そう言うとレナは渾身の力を使って魔法を発動させた。
先程とは比べ物にならないほどの魔力を含んだ水の塊を作り出していく。
しかしそこには、先程までの美しさは無かった。
「レナ、あなたこの力は?」
「もらったのよ。さぁ、勝負を続けましょう!」
レナの魔力の変化は対戦する優美をはじめ、見守る生徒達にも伝わった。
特に、福田の件を目の当たりにしていたしゅんは
胸騒ぎがしていた。
「なぁ加藤!この試合止めるにはどうしたらいい?」
いつになく真剣な表情で聞いてくるしゅんに
隆弘も少し戸惑った。
「試合を止める‥?多分、審判にしか出来ないと思うけど」
それを聞くと、しゅんはアリーナから身を乗り出して
下にいる本田向かって叫びはじめた。
「おい本田!今すぐ試合を止めろ!
このままじゃ、2人とも危険だ!」
上からいきなり呼ばれてビグっとなる本田。
「何言ってるだお前!2人ともまだやる気なのに
何故止める必要がある?」
しかし、しゅんの訴えを本田は聞こうとしなかった。
レナの方は、しゅんが優美のために止めようとしたのだと思い、さらに表情が険しくなっていった。
「月島くん、そんなに一条さんのことが‥
もう!どうにでもなれ!」
レナは作り出した巨大な水の塊を放った。
邪悪で強大な魔力に満ちた水が、優美に迫る。
優美も渾身の魔力を込めて風の竜巻を作り出し
レナの魔法目掛けて放った。
強大な2つの魔法は激しくぶつかり合った。
その瞬間とてつもない衝撃をその場に生み出す。
近くで見ていた審判もアリーナで見守る生徒達も
目を覆ってしまう程の衝撃だった。
2人の美少女から放たれた魔法は激しい迫り合いを見せ、拮抗しているように見えた。だが、勝負はついた。
レナの水が優美の風を打ち消したのだ。
そして優美はそのままもろにレナの水の魔法をくらった。
そのまま後方へと飛ばされて行き、後ろの壁に激突する。
その反動で優美は気を失ってしまった。
「や、やった‥私、一条さんに勝った」
そう言うとレナの方も倒れ込み意識を失った。
2人とも倒れるというこの事態に、会場中がざわつきはじめる。
「おい、しゅん!これ、やばいんじゃ‥」
「くそ!」
しゅんは急いで下へと向かい、隆弘もそれに続いて走り出した。
審判の本田も大変なことが起こったと思い、急いで2人の容態を確認する。
まず、魔法をもろに受けた優美に近づいて、意識を確認した。
「おい、一条。しっりしろ!」
駆け寄って軽く肩を叩きながら、声をかける本田。
すると優美はゆっくりと目を覚ました。
「あれ?私‥痛ッ!」
起き上がろうとすると、痛みが優美を襲った。
「まだ動かない方がいい!」
「いえ大丈夫です。あの、私どうなったんですか?」
「水上の魔法をうけて、気を失っていたんだ。
まぁすぐに意識も戻ったし、大丈夫だとは思うが‥」
「おい優美!大丈夫か?」
ものすごい勢いで駆けつけてきたしゅんが
息を切らしながら声をかける。
「しゅん。ありがとう、大丈夫みたい」
痛みはあるが、何とか立ち上がって答える優美。
優美のこの言葉には、しゅんも安堵の表情を見せる。
しかし、そばに立っていた本田の方を向くと
険しい表情でせめたてた。
「おい本田!どうして試合を止めなかった!
水上のあの魔力、普通じゃなかったろ!」
「すまない。確かにいつもとは違っていたが、まさかこんな事態になるなんて‥」
しゅんに言われ、本田も責任を感じているようだった。
「それより先生、水上さんの方は?」
「おう、そうだった」
隆弘の言葉で、思い出したかのように本田はレナに駆け寄った。
しゅんと隆弘もそれにつづく。
「水上。おい、水上!」
優美とは違い、レナの意識は戻らなかった。
それどころかかなり衰弱しているかのようにも見える。
「これ、かなりまずいんじゃ‥」
レナの容態に全員が不安を抱いた。
「加藤、すぐに救急車を呼んでくれ!
水上の方はすぐに病院へ運ぶ必要がある」
「分かりました。先生は?」
「私は一条を医務室へ連れて行った後、水上のご両親に連絡したり、学園長に報告したり事後処理をしておくよ」
「そうですか。分かりました。こちらはお任せください」
隆弘はそう言うと、スマホを取り出して救急車を要請した。
「歩けるか?」
「は、はい」
そう言うと、本田は優美を連れて医務室へと向かって行った。
「何であいつが連れてくんだよ」
会場を後にする2人の背中を見ながら、しゅんは不満をもらした。
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