第24話 思春期な一幕

翌日、しゅんは昨日と同様に支度をすませると登校時間ギリギリに家を出る。

すると、これまた昨日同様アパートの階段の下で

優美が待っていた。


「おはよ。そんな毎日待ってなくても

学校ぐらい、一人で行けるぞ?」


「今のところ、あなたの言葉は一つも信用できないの!」


「お、お前なー」


「いいから、早くいきましょう!」

そう言うと、優美は少し嬉しそうな顔をしながら

学校へと走り始める。


「いや、何で走るんだよ!」


しゅんも優美の後を追って走る。

学園に向かいながらしゅんにはある不安がよぎった。

このまま一緒に行けば、昨日と同じでまた男子たちが騒ぎ出すのではないか。

そう思うと、先を行く優美に比べ

しゅんの足取りはなんだか重たかった。


教室に入ると、案の定男子達の厳しい視線が飛んでくる。

しかし昨日とは違い、声をかけてきたのは

1人の女子生徒だった。


「おはよう。一条さん」


「あ、レナ!おはよう!」

普通に挨拶してくれたレナに嬉しそうな表情を浮かべる優美。

しかし、それとは反対にレナは険しい表情をしていた。


「昨日もそうだったけど一条さん。どうしてあなたが

月島くんと一緒に登校してるの?」


「え?いや、本当にたまたま会っただけなの」

レナの表情から、実は同じアパートの隣に住んでいて

ましてや自分の方からしゅんを待っていたなんて

とても言い出せなかった。


「へぇーたまたまね。転入早々、

序列一位の男子とたまたま会って登校なんて

さすがは大名家のお嬢様ね」


「あの、本当に私達、何もないんだけど」

年頃の女子の感情というものは、そう理屈通りにいくものではない。

横で聞いているだけのしゅんには、2人がどうして

険悪なムードになっているのか、さっぱり分からないでいた。


「ねぇ、一条さん。今日の放課後空いてる?」


「え、ええ。特に予定はないけど」


「それなら私と勝負してほしいの。もちろん正式な手続きをした模擬戦でね」


これには優美としゅん、さらに聞く耳をたてていた

他のクラスメイト達にも衝撃がはしった。


「おい、ちょっと待てよ。こいつはこれでも

序列10位の福田を倒したんだぞ。お前じゃ勝負に‥」


「月島くんは黙っててよ!」


「あ、はい」

とっさに声をあげるレナ。その声からも彼女の覚悟が伝わってくる。


「それで一条さん。勝負してくれるの?」


「分かったわ。その勝負受けて立ちます!」

優美が返事をすると、クラスメイト達は再びざわつきはじめた。

黒髪ロングで正統派美人の優美とショートボブで愛くるしいといった感じのレナ。

2人とも今や学年の男子人気をひそかに二分するほどになっており、実力はともかく女同士の頂上決戦だと

男子達はひそかに盛り上がっていた。


「おーーい、ホームルーム始めるぞー」


「あー、いいとこだったのによー」


しかし担任の登場は一足遅かった。

優美とレナ。年頃の難しい思いをかけた決戦は、本日の放課後に決着することとなったのだ。


授業も終わり休み時間になるとレナは早速、模擬戦の申請をするために職員室へと向かった。


「失礼します。本田先生、今日の放課後同じクラスの一条優美さんと

模擬戦を行いたいので申請をお願いします」


「一条と?水上、本当にするのか?」

この本田とは、この前福田と一条の審判を務めた教員だった。

間近でその実力を見ていたこともあり、少し不安そうにそう言った。


「はい!女として私、絶対に負けられないんです!」


いや、こいつ何言ってるだろう?と危うく声に出しそうになりながらも、本田は申請を受理した。


「分かった、それなら審判は俺が務めよう。

今日の放課後、準備ができ次第、第一演習場に来てくれ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします!」

そう言うと、レナは笑顔で一礼し職員室を出て行った。


この学園の序列戦は、一学年100人による

予選からまず始まる。 


3年生上位50名、2年生40、そして1年生34名のものが

トーナメント式の本線へと駒を進める。

つまり本線へと行かなければ順位すら付かないのだ。


前回の序列戦で本線に行けなかったレナは現在序列圏外。

10位の福田を倒した優美との差は歴然だった。

そんなことはレナ自身も充分理解していた。それでも自分の感情を抑えることが出来なかったのだ。


ピロリロリーン

「メール?」

職員室から教室に戻っていると

ポケットから突然通知音が鳴り、レナはスマホを取り出してメールを確認した。


「力が欲しいか?‥」

意味の分からない文章だった。

知らないアドレスからのメールで、差出人の名前もとくに書いてはいない。

下にスクロールすると、メールはさらに続く。


「もし力を求めるなら昼休み、自分の下駄箱を見てみよ。

使うか使わないかは、お前次第だ」


メールはそれで終わっていた。


イタズラだろうか。

どちらにしてもとても信用できるものではなかった。


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