第15話 学園長
女性はそのままゆっくりとこちらに近づいてくる。
「よう、ずいぶん久しぶりだなしゅん」
女性はしゅんのことを知っていた。またしゅんの方もその女性を知っているようだった。
「やっぱりアンタだったか。俺のあれを相殺できる魔導士はそう多くはねーからな」
「お褒めの言葉ありがとうしゅん。だが‥」
やはり2人は知り合いのようだが、しゅんの言葉に女性は何やら少し怒っているように見えた。
「学園長様に向かって、アンタとはなんだー!」
そう言うと、女性はしゅんのこめかみを拳でグリグリするという何とも古典的な攻撃を始めた。
「いたたた、痛すぎる。ちょ、ちょマジ許してー」
しゅんの訴えもむなしく女性は攻撃の手を緩めない。
「何がマジ許してだ。お許し下さい、学園長様だろ!」
学園長。先ほども言っていたがどうやら優美の聞き間違いではなかったようだ。
「あ、あの、学園長なんですか?」
状況が飲み込めずポカーンとしていた優美がようやく言葉を発した。
「ん?お前は‥」
そう言うと女性は攻撃の手を止めて、今度は優美の方へと向きを変えた。
「一条か、昨日からうちに来ている」
「はい、一条優美です。この度は転入を特別に許可していただき、ありがとうございました。挨拶できずにいて申し訳ありません」
優美の転入は特例だった。日本一の魔法学園で、一年生のこんな時期の転入は、普通単位もろもろの関係上認めらないことが多い。
一条家の事情となにより優美の実力を認めての学園長の寛大な対応だったのだ。
「いや、気にするな。昨日今日と私は学園にいなかったからな。もちろん家のこともそうだが私は君の実力を見て転入を許可したのだから」
先程しゅんと話していたときとは違い、とても優しい対応だった。
東京魔法学園の学園長といえば25歳の若さで日本警察魔法課のエースと呼ばれるほどとなり、その翌年今度は自ら学園を創立する。そこからわずか15年で日本一と呼ばれるまでの学園にした女性魔導士のカリスマだった。
「改めまして、東京魔法学園、学園長の藤田麻耶だ。
これからよろしくな!一条」
「こちらこそよろしくお願いします」
にこやかに挨拶し合う2人。完全に蚊帳の外になっていたしゅんは今更ながら一条という名字に引っかかっていた。
「一条..お前あの一条家の人間だったのか!」
いきなりのお前呼ばわりに優美は少しムッとした。
「何だ知らなかったのか?」
「いや、確かに名前聞いてなかったけど‥」
そう言うとしゅんは冷ややかな視線を優美に送る。
「しかしお前が知らない人間を助けるとはな。見直したぞしゅん」
まるで母親のような口ぶりで麻耶は嬉しそうにそう言った。
「結果的には助けた感じになったけど、最初は福田のあの異様な魔力。それが気になってここに駆けつけたんだ」
異様な魔力。そのことに関しては優美も麻耶も同じ意見だった。
「私もそれが気になって駆けつけたのだが、それ以上に強大な魔法を放ったバカがいたから慌てて止めることになったがな」
やれやれといったような視線を麻耶はしゅんに送る。しゅんもそれを聞くと多少申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そういや、その福田は?」
話を逸らしたかったのか完全に忘れ去られていた福田の方にしゅんは話題をシフトした。
3人が視線を送ると、福田の変身魔法はとっくに解けており
気を失ったままだった。麻耶は福田の方にかけより
状態を確認する。
「私は福田を病院に運ぶ。今日のところは2人とも家に帰れ」
「先生お一人で大丈夫ですか?」
あの大柄な福田を女性1人で運べるとは思えなかった。
しかし優美の心配をよそに麻耶は笑って答えた。
「心配するな。近くに車を停めているからそこまで運ぶだけだ。それに‥」
そう言うと麻耶は福田を軽々と抱え上げて見せた。
「腕力には自信があるからな」
あの福田を持ち上げるのは男でも難しいだろう。
それをいとも簡単にやってのけるのはさすがはもと警官だ。
「2人とも、詳しい話は明日学園で聞こう。しゅんも明日はちゃん来るように」
「はいはい。分かりました」
気怠そうにしゅんは答える。
「分かりました。では私もこれで」
優美がそう言うとしゅんもその場を後にしようとした。
しかし帰ろうとする2人に麻耶がまた声をかけた。
「今日はもう暗い。しゅん、一条を家まで送ってやるんだぞ」
「いえ私なら大丈夫です」
麻耶の提案に優美はやや強めに反応する。
昨日しゅんには道を教えてもらったが、その結果豚丼をおごらされるはめになったことが記憶に新しかったからだ。
「一条、福田にうけた怪我は大丈夫なのか?」
「はい、まだ痛みますが骨まではいってないようなので」
心配ご無用です1人で帰れます、と言わんばかりに優美は答えた。
「まぁそう言わずに、今日のところは送ってもらいなさい。
しゅんが何かしようもんなら私が許さないから安心しなさい」
哀れに思っての言葉だろうが全くフォローになっていない麻耶の言葉にしゅんは肩を落とした。
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