第10話 錠剤

「くそ!あの女絶対許さねー」

登校時間はとっくに過ぎていたが福田は苛立ちながら、特にあてもなく街を歩っていた。昨日の模擬戦、優美に敗れたことで相当気が立っていた。

物を蹴ったり、壁を殴ったりとその素振りはまるで子供だった。


「力が足りねー」

プライドの高い福田は優美も、そして己自身も許せないでいた。

今にも暴れ出しそうなその雰囲気は異様で、道行く人も見て見ぬふりをして通り過ぎていくほどだった。


「力が欲しいか?」


「何?」

背後からいきなり声を掛けられ、福田は警戒しながら後ろを振り向く。そこには夏だというのに厚手のパーカーを着た男が立っていた。フードを深くかぶっておりおまけにマスクもしているので顔は見えない。

その格好と背後から近づかれたのに全く気配を感じさせなかった男に不信感を隠せなかった。

「誰だお前」

鋭い口調で福田は男に詰め寄る。


「誰でもよかろう?それよりもう一度聞く。力が欲しいのか?」

あまりにも怪しい。格好、セリフともに漫画の悪役そのものだった。しかし今の福田にはそんなことはどうでもよかった。悪だろうが何だろうがただ力が欲しかった。


「ああ、欲しいね」


「ほう賢いやつだ。手を出してみろ」

言われるままに福田は手を差し出す。男は福田の手の上に2錠の錠剤を置いた。渡された錠剤を見つめるも普通の薬と変わらないように見えた。


「薬か?」


「まぁ、そんなところだ。これはある生物から作り出した秘薬だがな」


「おい、ある生物って一体‥?」

福田の問いに男は少し黙った。


「使うか使わないかは任せる。それではな少年」

そう言うと男は去っていった。


力が得られる秘薬。そんなものは聞いたことがない。ある生物からと言っていたが全く見当もつかない。危険かもしれない、そう思いはしたが福田にあまり迷いは感じられなかった。


「今は何より、力が欲しい」

そう呟くと男から渡された錠剤を口に運んだ。そして飲み込んだ瞬間自分の変化に気付いて驚いた。


「な、何だこれは?魔力が、俺の魔力が増大していくぞ!」

たった2錠それも飲み込んだ瞬間に確実に力を得られた。副作用があるかもしれない、しかし得た力は福田にそんなことを考えさせなかった。


「この力、試してみるか。まずはあいつだ」

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