第5話 森の中のログハウス
母親竜と別れ、やっと本題である外泊許可を取るために、自宅へ帰った。
許可を取るというか、無断外泊は問題なので連絡をする、というだけだ。だから置手紙でも良かったのだが、自宅には両親がいたので手紙を残すよりも言った方が早かった。
「分かった、ラルゴのことをよろしく頼む。あれでも竜王の息子だからな」
「……事情とか、深くは追及しないんだ」
すんなりと外泊を許可した父親に、……いやいいんだけど、でもちょっとは不安さを見せてほしかったピュウである。
『ダメだ』と言われたら面倒だ、とは思っていたが、考えもせずに即答は、なんだか納得がいかなかった。信頼の証だろうけど……娘が心配ではないのか、この父親は。
「ラルゴの傍にいるのだろう? なら、なにを心配することがある」
「ほら……ラルゴに、その、襲われるとか……」
「願ったり叶ったりじゃないか」
「そうだけど!!」
思わず出てしまった本音に、慌てて口を押さえるピュウだが……、父親は「なにを今更」と溜息をついた。父は竜の姿なので、溜息の風がピュウの顔を撫で、髪が乱れる……。
手櫛で整えたピュウが、おほん、と咳払いで誤魔化し、
「ラルゴとは幼馴染でしょ。だからわたしが面倒を見てるだけ」
「幼馴染の男の子は他にもたくさんいると思うがなあ……どうしてラルゴだけなんだ?」
「だって、あいつが一番、手がかかるから。わたしがいないと……(ブツブツ)」
ピュウからラルゴへの好意は、誰もが知っている……知らないのはラルゴだけだ。
……たぶん。まさかラルゴも知っていて分からないフリをしている……?
だとしたら父親からすれば、『ぶん殴る』理由ができたわけだが……。
「まあ、とにかく外泊の許可は出す。
十年でも二十年でも、ラルゴと二人で元気に暮らしてくれ」
「ん、分かったわ。でもちょくちょく帰ってくるからね。あいつみたいに音沙汰無し、ってことはしないから……。あと、困ったことがあったら遠慮なく言って。手伝うから」
「助かるよ。それで……どこにいくつもりなんだ?」
ピュウはこの質問に、自然と答えてしまった。
問題になる、ならないを考えるよりも早く、父親の何気ない質問に、いつもの癖で返してしまっていて――それが失敗だったと気づくこともなく、ピュウは居場所を伝えてしまった。
「近くの森よ。だから呼んでくれればすぐに戻ってこれるから」
隠れて子供を育てている……、
ピュウに問題がなくとも、ラルゴにはあるのだ。
翌日、ピュウが森へ訪れると、木々に紛れて小さなログハウスがあった。
ラルゴの手作りなのだろう……、立地のせいもあるが、彼の性格のせいでもある。
傾いているログハウスは、一階のみで、扉を開けて一部屋しかない簡易的なものだ。
まあ、赤ん坊を育てるためだけならば、今はこれくらいでいいだろう……、赤ん坊が子供になり、少年から青年、大人になれば、家も増築することになるだろう。
その時に考えればいい……、子育ての前に家に意識を割いても仕方がない。
「……なにあれ……猿……?」
頭にいくつものたんこぶを作った猿の群れが、列になってログハウスの前の切株に果物を置いていっている。
バナナ、リンゴ、ぶどう、などなど……彼らが好む食べ物を譲ってくれるのは、きっと協力的だから、ではない。ラルゴがなにかしたのだ。
予想はできる。どうせ話し合いよりも先に手を出して、猿の群れを舎弟にしたのだろう。すぐに手が出るところは昔から変わっていない。
だから竜のアウトローたちから、『若』なんて呼ばれているのだ。
「食料はこれで足りるか……、――よお、ピュウ。早かったな」
「リグは?」
「部屋で寝てる。起きてる時間よりも寝てる時間の方が多いんだが、いいのか?」
ログハウスの中へ足を踏み入れると、まだ家具も満足になく、持ち運べる切株の上にバスケットと、その中に赤ん坊のリグヘットがいるだけだった。
外が見える窓はあるが、扉はない。これでは寒さを防ぐことができないだろう。
寒暖差によって、リグヘットは体調を崩しているのではないか?
「どいて」
ラルゴを押しのけ、バスケットを覗く。
リグはすやすやと眠っているが、表情は少しだけ崩れている、ようにも見える……。
年季が入った毛布で包んだだけでは、やはり体温を保持することは難しいか……。
「やっぱり人里に下りた方がいいと思う……、この子を人間に丸投げするためじゃなく、この子に必要なものを揃えるためによ」
「あてがあるのか? 言っておくが、金はねえぞ」
「期待してない。そういう甲斐性がないことは知ってるから」
十代後半の少女に、三十代の男が言われるセリフではない……見た目だけを言えばだ。
二人とも、竜としては見た目よりも倍以上も生きているが。
「必要なものを集めてくるから、ラルゴはリグの様子を見ててあげて」
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