田辺さん
俺は、そんなどこか達観したような、厭世的で嫌味な高校生だったと思う。
そんな俺が、ある日重度のアニメオタクに出会ったんだ。
日直の当番だった日の事だ。
俺の学校は、日直の当番を毎週ランダムで決めるという、いささか頭のおかしいやり方をしている学校だった。
毎週ランダムで決めているせいで、偶然三週連続で日直をする生徒とか出てきたりな。
頭おかしいだろ?
俺はまだそんな不運を味わったことないが、こいつとの出会いは、ある意味不運だったのかもしれない。
俺はその日から一週間、田辺ミチカっていう女子と日直をする事になったんだ。
「なんだ、今週の日直、私か~」
田辺は一見普通の女子高生だった。
髪も特に染めていないし、薄化粧でアクセサリーもつけていないし、どちらかというと落ち着いた様子の奴だ。
ごくごく普通。
普通過ぎて、どちらかというと地味で、つまらなさそうな奴だった。
「ねぇ、木下って、いつも誰と遊んでるの?」
授業で使う資料を、職員室から教室へ運んでいる時の事だった。
田辺がそんな事を平気で聞いてくる。
「いや、別に誰とも遊んでねーけど」
教室で普段誰とも喋っていない奴に、そんな質問してくるなよ、と思った。
軽犯罪だと思った。一回捕まってくれ。
「へぇー、じゃあ休日も?」
「あ、ああ……」
田辺の追い打ちがひどい。
「私と一緒じゃ~ん」
「お前、井口とか木村と仲良さそうなのに。そんなお前と俺の、どこが一緒なんだよ」
「え? いや、別にあの二人と一緒に遊んだことなんてないよ?」
「そうなんか」
「そうだよ~。あの二人とは、学校で話してるだけ。別に学校以外で遊んだりしないし、しようとも思わないしね~」
「じゃあお前こそ、休日何してんだよ」
「私はがっつりアニメ鑑賞! 休日なんて速攻で溶けるし」
にひっと笑いながらそんな事を言う。
何か誇らしいとでも思っているのか。
田辺の様子を見ていると、以前までの俺を思い出す。
アニメとかそういったものに嫌気が差す前の、楽しめていた頃の俺。
「アニメとかつまんねーよ」
「えー? めっちゃ面白いのに」
そう主張してくる田辺は、目をキラキラさせていた。
「どんな所がおもしろいんだよ」
「あいやわかった!じゃあ今日、おもしろさを熱烈に語りまくってあげるから、放課後付き合うのだよ!」
「時間かかるのか? なら嫌なんだけど」
「五分くらいで済ませるし」
「そんなに短時間なら語るに値しないって事だな。却下」
「どっちにしろダメじゃん! 嫌な感じだな~」
だが結局、田辺の強引な誘いの結果、その日学校が終わったら話を聞くことになったんだ。
ちょうどバイトも無かったから、俺の都合的には今日でよかったと思う。
ただ、めんどくさい気持ちでいっぱいだった。
他人がはまってる物なんて、誰が興味持てるんだよ。
そう思ってた。
学校が終わってから、俺は近くの本屋で時間を潰していた。
うちの学校は部活動の参加が自由なんだが、田辺は美術部に入っていた。
だから俺よりも帰りが遅くなっていたんだ。
学校で話す事も考えられたが、誰かに見られて良からぬ噂でも立てられたらお互い嫌だという合意のもと、学校は無しという事になった。
一応喫茶店集合ってことで、時間だけは決めていた。
先に喫茶店に入って待っていると、田辺がやってきた。
「あ、居た居た! すっぽかされたかと思ったわー」
「すっぽかした方が、後々めんどくさそうだからな」
「うわ、ひっどいなー。木下って、中学の時も友達いなかったでしょw」
田辺はケラケラと笑っていた。
「ていうか、お前美術部だったんだな」
「そうだよ? 何か問題でも?」
「いや問題ねーけど。何? 将来画家にでもなりたいのか?」
「え、そんなつもりじゃないけどw 発想が極端すぎんだけどw」
画家じゃないにしても、イラストレーターとか漫画家になる奴は多いと思うんだけどな。
「美術部に入る奴の気持ちとか知らないからな」
「じゃあ野球部入ってる男子は、皆プロ野球選手目指すの?w」
「そんなわけないだろ」
「それと同じじゃん。なんで美術部だけ一人残らず画家だよw」
田辺は、気さくな奴だった。
女性らしさはほぼ無くて、色気も全然ないような奴だった。
胸もない。
ケツもない。
いやケツがないってなんだ。
無くはないが、ケツ肉が少ない。
だからなのか、女性と話す機会の少ない俺でもやたらと話しやすい。
というか、俺としてはもうほとんど男子と話してる感覚だった。
「それで、学校で言ってたアニメってなんだよ?」
「木下は知らないかもしれないけど、「召喚少女とデッドモンドヘヴンズ」っていう、女の子が主人公のアニメなんだよね~」
「名前くらいは知ってる」
「あ、そうだったん?」
「内容は良く知らないけど、タイトルからして二番煎じな感じだろ」
「うーん。ネットの評価だとそこまで二番煎じ感はないみたいだけど?」
俺は、ネットの評価は当てにしないたちだった。
「俺は二番煎じ感バリバリなんだよ。そもそも「なんたら少女」の時点で減点だわ」
「厳しいな~。ただの言葉狩りじゃんw」
「狩られるほど蔓延するな。言葉狩りという駆逐作業が必要なんだよ」
「えー、面白いのになぁ」
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