第719話 中古《ドール》、こっそり企む

「マスターは寝ましたか?」


「寝た寝た!」


 マスターの指が銀色になる騒動を無事に収め、お休みになられたのを確認してから、僕達は動き出す。


「マスターは最近忙しくしていましたから、僕達にできそうなことはやってしまいましょう」


「ラトウィッジみたいに大きい体がもらえたら、わたくしももっとあれこれできたかしら……」


「でも、小さい体もいいなって、見てて思います」


 そんな話をぽつぽつしてから、まずは簡単な作戦会議をした。必要なのは倉庫の整理と、お掃除と、あとは軽く口にできそうなものの用意。全部はやめておくつもりとはいえ、糸も紡いでおきたい。本当を言えば布織りもしてみたいけれど、残念ながらマスターの機織り機は大きすぎて、僕たちには使うことができなかった。


「お掃除します。あの、糸紡ぎ……キーラさまは教えてくれるでしょうか」


「頼めば教えてくれますよ。そしたら、みんなでマスターの助けになりましょうね」


「アワユキもお掃除やるー!」


「埃まみれで丸洗いにならないように、気をつけないといけないわよ。わたくし、糸紡ぎをしてよろしいかしら?」


「お願いします。僕は倉庫の整理をしてから、お昼が近くなったら昼食を用意しますね」


 マスターに一人でお仕えしていた時は、僕が全部をやらないといけなかった。その分、マスターを独り占めできたとはいえ、あの頃はそんな自覚もなかったものだっけ。

 そんなことを考えながら、僕は倉庫として使っている部屋の整理をする。様々な名札の貼られた瓶や袋の管理が適切か、わかる範囲で確認をした。ついでにこの間のように、ひょっこり綿がひと袋出てきたりしないかも。なるべく同じようなものを一箇所に集めながらの作業は、本格的にやろうとするとおそらく半日では絶対に終わらないものだった。

 ……マスターの溜め込んだ素材の中には、僕達が一緒に採ってきた物も多い。そんな素材を見ながら、僕はぼんやりと考えたことがあった。


「魔法でなくても、僕たちが、マスターに作れる何かがあるでしょうか」


 魔女であるマスターの美意識に恥ずかしくないような、素敵な何か。日頃の家事はお願いされてることもあるし――今はされてなくて、勝手にやってるけど――糸紡ぎも、教えてもらって身につけた技だけれど。

 中古である僕、拾われたアワユキ、僕と分けてもらったキャロル、そして捨てられていたラトウィッジ。マスターが集めた僕たちの誰も、普通ではないから。だからできることがあると思いたいのかも、なんて考えながら、僕は綿の袋を持ち上げた。マスターが眠っておられるうちに、見繕わなくては。

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