第709話 クロスステッチの魔女、少し狼と話す
獣の足音に、私が獣と話すための魔法を被る。ガサガサ、という音がして、白い狼が姿を現した。太陽のような金色の目をしていて、体は流線形をしていた。少し、痩せているようにも見える。
『……魔女だわ』
「ごめんなさいね、森の兄弟。山頂に行ったらすぐに帰るわ」
『珍しい言い方をするのね』
前に話した『流れ星の尾』は小さい子供のような話し方をする子だったけれど、彼女は落ち着いた性格のようだった。
『私の言っていることがわかるの?』
「ええ。今はそういう魔法を使っているから」
軽く動かされた耳が、少し揺れた尾が、言葉を伝えてきているのがわかる。前に『流れ星の尾』と話した時よりも、どんな仕草や鳴き声が言葉になっているのか、なんとなく前よりもわかりやすくなっている気がした。魔法の腕前が上がったからか、狼のことを知ったからか、多分どっちかだと思う。
『……すぐに帰るなら、いいわ。群れにも伝えておく』
「ありがとうね。あなた達の群れに、いい獲物がありますように」
彼女は尻尾を一振りして、茂みの中に消えていった。
「すごい! キーラさま、狼とも話せるんですね!」
「そういう魔法を使っていたからね。私達が来ていることにピリピリしているようだから、早く要件を済ませて帰りましょうか」
「「「「はあい」」」」
私達はもう一度、山道を進みなおすことにした。もっと上へ、山頂へ。それらしい道をたどってしばらく行くと、やがて木々が消えた。周囲は岩ばかりの景色になって、ふと振り返るとそれなりの高さまで登ってきたのがわかる。魔法を目からずらして上を見ると、岩肌の一部が自然と光っているのがわかった。多分、あれが星屑石のあるあたりだ。
「もう少し上がれば行けそうですね」
「あるじさまー、もう飛んじゃいましょうよう」
「そうね、そうしましょうか」
色々拾ってみたり探してみたりするのは悪い気分じゃなかったけれど、確かに狼達に早く帰ると言った手前、その方がいいかもしれない。私は箒にまたがり、《ドール》みんなを載せて空に飛びあがった。この辺りは岩ばかりだから、あっさり上に浮かび上がる。歩くより早く、箒は上へ上へと舞い上がっていった。
「マスター、星屑石があんなに沢山あるなら、いっぱい拾ってもいいかもしれませんね!」
「でも採りすぎはダメよ、ちゃんと程ほどにしないと」
そんな風に話をしながら、私達は光る岩肌の近くに着地する。直接そこに降りるのは、石を踏みつけることになるからやりたくなかった。
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