第708話 クロスステッチの魔女、夜の山を探索する

「何か、いいものは見つかった?」


 そう聞いてみると、ルイスから「僕はまだですが、ラトウィッジが透き通った石を拾いました」という答えがあった。まだ日が落ちきっていないから、探検を始めてそれほど時間は経っていない。幸先のいい彼が小さな袋から取り出したのは、小さな水晶の欠片だった。ひび割れも入っていない、内包物もない、本当に透明な水晶。《ドール》の爪程度の大きさだけれど、ラトウィッジにとっては初めての成果だろう。


「これ、お役に立ちますか?」


「そうね。これなら魔法に加工とかはしないで、そのまま飾りにしていいと思うわ」


「ありがとうございます、キーラさま!」


 ボタンか何かにくっつけて、ラトウィッジの服の飾りにしてもいいかもしれない。他の子達にはお揃いで買ったものを、この子は持っていないわけだし。そんな風に考えていると、アワユキが「アワユキもキラキラ見つけたいのー!」と言い出した。


「あんまりはぐれちゃだめよ。みんなでそれぞれ、周りも気にしておくように」


「はあい、マスター」


 新入りが見つけたようなものを自分たちも見つけたいと思ったのか、みんなはまた自分達で探しに出てしまった。とはいえ、本当に離れているわけではない。木を何本か間に置いた程度だし、私の視界から四人は消えていなかった。だから、自分自身の探し物にも心を向けられる。

 カロリナの実と若木に枝。この三つがあれば、香木にも蜜煮ジャムにも当分困らない。私は上機嫌で、残りの探し物である星屑石のために坂を登った。夜は霧のように下に凝ろうとするから、さすがに暗くなってきたので《夜目》の魔法を使う。たちまち、暗闇が隠そうとしていた木の葉や岩が、その姿を紺色の中に現した。銀色の影の線がヒトガタを描いているのは、私の《ドール》たちだ。


「みんなもこれ、やってみて」


「はぁい」


 渡しておいていた魔法を四人がつけた証に、銀色に目が光るのがわかった。彼らからは、私の目が銀色に光っているように見えるだろう。


「それじゃあ、もう少し山を登りましょうか。星屑石があるなら山頂だし、少し早くしないと」


 ひょいひょいと石を飛び越え、太い枝を階段の代わりにして、私は四人の様子を見ながら歩いていく。体の小さなアワユキとキャロルは、早々に飛んでいるようだった。ルイスとラトウィッジは、歩いている。


「キーラさま、足音がします」


「多分、獣のです」


 獣の足音くらいするだろう、足跡も見える。けれど二人がそう言った後、足音が明らかに近づいているのが私にもわかった。

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