第710話 クロスステッチの魔女、星屑石を手に入れる

 地面が、薄青く染まっている。それが、星屑石の溜まっている穴を見た最初の印象だった。近づいてみると、ちょっとした洞穴のようなものがあるのがわかる。そこに、星屑石が溜まっていたのだ。星の光を浴びて、薄青に光る石たち。私は喜んでそれを拾おうとして、うまく掴めないことに気づいた。


「……まさか」


 確かに、小さな石をいくつか拾うことはできる。けれど、石の塊そのものに、洞穴の奥の方に、魔法の気配がある。星屑石の魔力とは違う、誰か魔女の作った魔法の気配だ。なんだろう、これ。とりあえず拾える石は拾いながら観察すると、星屑石の表面には明らかに、削ったりした跡がある。


「もしかして、これ、どこかの魔女が作ったの……?」


「えっ、これ、魔法の産物なんですか?」


 多分ね、と言いながら、どういう意図かを考える。周囲をそのつもりになって見てみると、朽ちかけた糸が洞穴の上に結ばれているのがわかった。厳密には糸は細かく編まれていて、結び方と色、魔力が意図を伝えてくる。


『石を生む洞穴』


『魔法の根元に触れなければ、ご自由に』


「主様、どうしたの?」


「誰かが場所取りをしている場所だったのかしら」


 たまに、こういう場所があるとは聞いた記憶があるけれど、実際に見るのは初めてだった。魔女が何か素材になるものを生み出す魔法をかけて、自分の専有にすることもある。けれど、好きに開放して他の魔女に取らせることもあるらしい。


「石同士が固まっちゃってるみたいだから、一部は掘ったり削ったりして取り出すのがいいんじゃないかな。使えるの、使えそうなの……」


 石を生み出す魔法のかけられた洞穴に、当の魔女も他の魔女も訪れなかったからだろうか。夏の日に外に放置した砂糖細工がくっつきあって一塊になるのと、同じことが起きているようだった。だからカバンの中をごそごそと漁って、シャベルを出してくる。カバンの中から《頑丈》の魔法を刺したリボンを出してきて、巻きつけた。爪でつついた時の音が違うことを確認してから、シャベルを石の塊に突き立てた。カァン!と甲高い音を立てて、握り拳二つ分の石の塊が掘り出される。もっと細かくできそうだったけれど、それは後で。


「あるじさま、お手伝いをさせてくださいな」


「ありがとう! じゃあ、掘り出さなくても拾える小さいのをいくつか、拾っておいてくれる?」


 頷いたみんなが小さな石を拾っている横で、私はもう一塊の石を掘り出そうとしていた。それだけあれば、魔法に十分足りるだろう。この辺りがいいかな、と当たりをつけて、もう一度シャベルを振り下ろした。

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