第678話 クロスステッチの魔女、のんびりする

 ラトウィッジがルイス達の手を借りずに飛べるようになるまで、一週間ほどかかった。体を動かすのに慣れてないような感じが時折するあたり、もしかしたら、この子の元々の体は大きさが少し違ったのかもしれない。それとなく聞いてみても、本人は覚えていないようだけれど。


「ラトウィッジのことは、僕達が兄姉としてしっかり見てあげないと!」


「でも、段々うまくなってきたよねー」


「もうすぐ、わたくし達抜きで自在に飛べそうですわ」


 そんな風に三人に言われたのは、魔力を消費して疲れたラトウィッジが先にベッドに入っていた頃。起こさないようにこっそりと話すあたり、本当に仲が良さそうだった。私はこの一週間の間、《ドール》たちが交互にラトウィッジの飛行を手伝う様子を横目に、糸や布や《砂糖菓子作り》の魔法を作って、それなりに過ごしていた。


「ラトウィッジが起きたら、これを巻いてあげないとね」


 お師匠様がやっていたのと同じような、巻いてあげる服のための布。裾にあたる部分には、《身の護り》の魔法を刺繍していた。他の子達と同じように、これで何かあっても――もちろん、ないことが一番だけれど――ある程度は、服が彼らを守ってくれる。服の一枚でこの子達が傷つかないなら、安いものだ。


「マスター、お砂糖菓子ください」


「アワユキも!」


「わたくしも食べたいです」


 それぞれの袋に砂糖菓子はもちろん入れてあるけれど、わざわざ言ってくるということは、私の手ずから欲しいのだろう。そう思って、私は作ったばかりの刺繍にお試しがてら魔力を通した。我ながら上手にできた刺繍から、美しい魔力が花開くようにして広がり、砂糖菓子の小山を作り上げる。


「ほら、おいで」


「「「わぁい!」」」


 三人に砂糖菓子をつまんで、それぞれの口に入れてやる。そんな些細なことを、この子達はとても喜んでくれるのだ。上手に飛べるようになった、とラトウィッジが見せに来たら、あの子にも食べさせてあげようと思う。


「飛べるようになったら、糸紡ぎも手伝わせますか?」


「そうね、素材集めも糸紡ぎも、何人いてくれたって嬉しいもの。やれるようになってもらいたいわね」


「あの子も、マスターのお役に立てると知ったら、きっと喜びますよ」


 ルイスはそう確信しているらしく、うんうんと頷いていた。アワユキとキャロルも賛同している。


「んぅ……お砂糖菓子のいい匂い〜……」


「あっ、バレちゃいましたね」


「ラトウィッジの分もちゃんとあるわよ」


 寝ぼけ眼で起きてきたラトウィッジにバレてしまったので、お砂糖菓子を食べさせてあげるのを今することにはなってしまった。

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