第676話 クロスステッチの魔女、初めての食事を振る舞う

 ラトウィッジにルイス達が、魔力を込める際の力加減、のようなものを教えている姿を横目に、私はラトウィッジのための小さなベッドを用意していた。先日、糸を納めに言った魔女組合で見つけて買っておいていたものだ。食器類も一式ある。すべて、白い木でできている。


「どう? うまく飛べそう?」


「加減が難しいですぅ……」


 心なしか、ラトウィッジの声が萎れている。いきなり魔力を使いすぎたのかもしれない。


「ラトウィッジ、これを食べてください。マスターの砂糖菓子が入っていて、魔力を使って疲れた時にいいんですよ」


「おいしいよー!」


「ええ、とっても」


 ルイスが代表して説明しながら出した砂糖菓子を、ラトウィッジの口に放り込む。口を開けて、と言われて素直に口を開けたラトウィッジは、口に入ってきた甘味に目を丸くした。


「たとえ魔法のために魔力を使っても、使わなくても。消耗していく魔力を補うために、砂糖菓子が必要なの。ほら、首を出して。ルイス達と同じ魔法の袋をかけてあげるから、欲しくなったらここから食べるのよ」


「わかりました、キーラさま」


 素直に頷いたラトウィッジに「よろしい」と頷き返して、私は食事の支度をしに行くことにした。もう窓の外は真っ暗ではなく、なんだかんだとしているうちに夜が明けようとしている。だから多分、朝ごはんでいいはずだ。


「ちょっと台所にいるから、みんなは練習しててね」


 わかりました、と素直に返事をするルイス達を横目に、私はシチュー鍋をかき混ぜる。この間の残りを暖炉でずっと温めていたのだけれど、そろそろこの手段ともしばらくお別れかもしれない。

 味見をしてから、ついでに貯蔵庫から油紙に包んだチーズを一塊出してきて、削って入れる。すでに何度もそうしているから、車輪のように丸かったチーズもいびつな形をしていた。チーズを削るのは魔法を覚えるより前からやっていたから、チーズ削りナイフも軽々使える。薄い布のようにチーズが剥がれて、シチューに溶けていった。ちょっとした達成感。


「みんなおいで、ご飯にしよう。もう朝ごはんだけど」


「「「「はぁい」」」」


 《ドール》も食べるから、小さく切った具材のシチューを小さな四つの皿によそう。もちろん自分の分も入れて、席に座った。まだラトウィッジはうまく飛べないから、ルイスやアワユキに持ち上げられる形で飛んでくる。


「これがラトウィッジのお皿と、スプーンよ」


 他の人の持ち方を真似てスプーンを持ったラトウィッジは、シチューをひとくち頬張って笑った。

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