第675話 クロスステッチの魔女、ちょっとした騒動に見舞われる
ラトウィッジに魔力の通し方を教えて、飛ぶように教えることにした。気づけばもう夜になっていたけれど、私も《ドール》たちも眠そうな様子は見せなかった。少々、気分が跳ね上がっている自覚はある。
「私の刺繍であれなんだけどね、これを綺麗だって思ってもらえると、魔力が通るの。そうすると、刺繍の魔法の力でラトウィッジは空を飛べるようになるわ。他の三人もそんな感じなの」
アワユキは中身である雪の精霊の力で飛んでいるようなものだから、ちょっと違うけれど、そこまで違いはないだろう。多分。今つけているアワユキのリボンも、基本は魔法での飛行を助けるためのものだった。
「や、やってみます、キーラさま」
んんんんー、と一生懸命に目をつむって力んだような声を出すラトウィッジが頑張っていたかと思うと、ゆっくりと刺繍に魔力が乗る気配がした。最初はうまく乗らなくても、慣れていけば魔力通しは素早くなる。そうやって見守っていた時、事件は起きた。
足が少しずつ浮いていったかと思うと、次の瞬間、ラトウィッジが視界から消えたのだ。上から、ごちんという痛そうな音がする。
「えっ、ラトウィッジ!?」
「いちゃい……」
一瞬で天井まで飛んで行ったラトウィッジが、痛いと言って頭を押さえて呻いていた。私が腕を伸ばしても届かない高さに飛んで行った姿を見て、慌てて叫ぶ。
「ルイス! ラトウィッジを連れて戻ってきて!」
「は、はい!」
慌ててルイスが飛んでいく。ラトウィッジの刺繍ショールは強い魔力を持っていて、どうやら魔力を通しすぎてしまったらしい。ルイスがラトウィッジをうまく降ろせないで苦戦している様子を見て、「ショールを脱がせて、一回降りて来て」と言った。ルイスがその通りにする。
「ごめんなさい……」
「いいのよ。ヒビとか入ってない?」
「ないです……」
こくんと頷くラトウィッジの頭をさすってやる。髪の毛を掻き分けるようにして触れてみると、幸い、ヒビが入ったような感覚はしない。ほっとした。
「ラトは魔力が強いんですかね」
「中々浮かなくて、いっぱいいっぱい綺麗だって思ってたら、あっという間に飛んでっちゃいました……」
「すごぉい」
「ばびゅんって飛んでっちゃったー!」
「これからは一応、気を付けてね」
もう一度頷くラトウィッジのことを、四人が囲む。しばらくすると着ている人を失ったショールがひとりでに落ちて来て、私はそれを受け止めてもう一度着せてやった。
「ありがとうございます」
そう言って、ほっとした顔でラトウィッジは笑った。
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