第666話 クロスステッチの魔女、五つ目の物語を聞く
五つ目の黄色い《核》を見てみると、今までの二つとは色が違った。黄色は黄色だけれど、これだけが一番純粋な黄色だ。他は、見比べてみるとかすかに他の色が混ざっているような気がする。
「イルミオラ様、こちらは……?」
「あら、気づいた?」
「ええ……少し、他の二つとは黄色が違います」
「どう違うか言ってご覧」
お師匠様にそう言われて、私は魔法を習っていた頃のようによく三つを見比べる。花嫁の《核》はこうして近づけると色が薄く、家族の《核》はかすかに緑がかっているように見えた。だから、それを率直に言う。
「そうね、心のカケラは色が混ざりやすい。人間も魔女も、感情は複雑に入り混じりやすいから。それを選り分けて作るのが《核》だけれど、他の色の影響が滲むこともある。これくらいなら、害はないのだけれどね」
なるほど、と私はその言葉に頷いた。イルミオラ様によると、花嫁の《核》は幸せを。家族の《核》は安らぎも待ち合わせているから、こういう色になったらしい。怒りの赤には悲しみの青、安らぎの緑には喜びの黄色が含まれているとも教えてくれた。
「あんたの水晶と同じだよ。これも、
「なるほどー……」
そう言われると納得した。きっと、《核》にするにはそれらを含んでいない部分を使うのだろう。色が混ざったカケラは、カケラを好んで集めて取っておく、イルミオラ様のような魔女だけが持つ特別なものなのかもしれない。
「この《核》は、競売の会場で採らせてもらったものでね。何年も探していたという宝石を手にした、とある人間の金持ちのものだった」
「競売?」
一瞬聞き返してしまったものの、思い出す。私は参加したことはないけれど、そういう売り方をする物もあるとは聞いていた。魔法の品物でも、それ以外でも。珍しく貴重なものは、値段を買いたい人が争って、一番高い値をつけた人に売るらしい。もちろん、私には縁がないから、聞いただけだ。最低でも金貨十枚から始まる買い物なんて、百年経ってもできる気がしない。
「あたくしと宝石を競り合った男でね。まるで恋する女のように、ちらと見かけた宝石をずっと探していたらしい。それをやっと見つけて、私や数人の魔女に競り勝って手にした時の、喜び。あたくしは宝石を諦める代わりに、その喜びの感情を採らせてもらった。合わせて宝石細工に出すと言って、これも持って帰ったな」
競売で競り勝つなんて、一体いくら積み上げたやら。それは聞かないことにした。
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