第664話 クロスステッチの魔女、《核》のその後を考える
「あなたはその子に、どうなって欲しいと考えている?」
イルミオラ様にそう言われて、私は少し首を傾げた。大切にしたいとは思っているけれど、多分、これはそういう質問ではない。それはわかる。
「どうなって、というと……」
「あたくしはエリーを組んだ時、エリーがあたくしに似合わない服を着こなして、お茶を淹れてくれればと思ってた」
確かに、服装の趣味は大分違う主従だった。装飾の少ない服をすっきりと着こなすイルミオラ様に対して、フリルとレースがついた服をエリーは可憐に着こなしている。逆では似合わないだろう。
「ああ、それであんた自身の服とは真逆なのをエリーに着せてるんだね」
「着てみたくても、似合わないのはわかっていたから」
そもそもルイスは男の子だし、キャロルは女の子の服を着せているとはいえ、単純にこの子に似合うものを見立てているつもりだから、新鮮な話だと思って聞いていた。エリーは表情が豊かな方ではないみたいだけれど、それもまたいいと思う。
「そもそも、そこのぬいぐるみのような《精霊人形》から《ドール》になった理由の半分は、これだ。ぬいぐるみの体では、自分には似合わない服を着せてやるわけにはいかない」
「そういえば、人型の《精霊人形》はいないんですか?」
ふと、前からなんとなく疑問に思っていたことを口にしてみる。するとお師匠様は「まったくいないわけじゃないんだけどね」と少し苦い顔をされた。
「昔、色々あったんだよ。そもそも人型で納得してくれるような精霊は、かなり長く生きて位が高いから、数も少ないしね」
「確か、二等級になれば詳しく話していいんだったか。勉強なさい」
「はあい」
三等級になって知って良いことはかなり増えたと思ったのだけれど、やっぱり、もっと色々とあるらしい。私は今は、大人しくそう返事をしておくことにした。
「この子にどうなって欲しいか、か……」
「それが、《核》を決める際の動機の一つになる。赤や黒でも、戦闘用の《ドール》には入れられる方が多いらしいね。魔物なり何なりから自分の身を守るために、最初からそのつもりで《
私はその言葉に、なるほどと頷いた。怒りや憎しみから生まれた《ドール》にも、それはそれで行き場と需要があるらしい。
「家で大人しくさせるつもりなら、その二種類はうまくやれないこともあるけれど、絶対ではないね」
「ますます迷います……」
残念ながら、迷いは増える一方だった。
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