第663話 クロスステッチの魔女、三つ目の話を聞く
三つ目の《核》の物語は、柔らかい黄色をしていた。
「長年子が授からなかった夫婦に、奇跡のように子ができたんだって、その二人は喜んでいた。下手に触れたら壊れてしまいそうな、脆くて小さな赤子を抱えて、幸せそうに笑っていたわ」
イルミオラ様がそう話すのが、何年前のことかはわからない。だけれど、もしかしたらもうその子が大人になるどころか、歳をとって死んでいるくらいの時間が流れているかもしれないと思うと、面白かった。
「初めての子供、ってこんなに喜ばしいんですね」
今更自分の親への恨み言を言う理由も何もないけれど、こういう時に、ふと思う。私は置いて行かれた子だったし、結婚もしなかったし、する予定もない。だからきっと、こんな気持ちを自分が体験することはないと思っていた。けれど、蜂蜜のように温かい黄色の光からは、そういう気持ちを感じ取ることができるような気がする。
「もちろん色んな事情があるとはいえ、ここまで鮮烈な黄色になるほど喜んでいる人がいるのは、絶対に残しておくべきだと思ってね。うん、とっても綺麗な黄色だから、いい《ドール》になると思う」
私はまた《核》を持たせてもらって、そのキラキラとした光を見つめた。光の加減でなのか、中に小さな白い、柔らかい綿のように光るものがあるように見える。
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