第662話 蒐集家の魔女、色々と考える
アルミラが連れて来た弟子は、黒い髪に青い目をした若い魔女だった。まだ《肉なし》ではないのに、すでに二体の《ドール》と一体の《精霊人形》を連れ歩き、さらに増やそうとしている。ある程度話には聞いていたけれど、複数の《ドール》を連れて全員とうまくやり、新しく増やすことも容認されているのは少し珍しいと思う。少なくともあたくしは、エリー以外を増やしてややこしいことになりたくない。
「マスター、このメレンゲのお菓子おいしいですね」
「おうちでも食べたーい!」
「それは失礼でしてよ、エリーの秘伝かもしれませんもの。わたくし達はわたくし達で、新しいレシピを考えてみるのはいいかもしれませんが。よろしいですか? あるじさま」
「ええ、今度みんなでやりましょっか」
別に秘伝でもなんでもないメレンゲ菓子の味について、あまりに大真面目な顔をしている姿に笑みが溢れてしまう。エリーにこっそりレシピを書いておくように言うと、彼女は無言で頷いた。
元々、人付き合いは得意な方ではない。友達と呼べる魔女も少なく、組合で作品や素材を納品するのも最低限だ。《核》を作り、心のカケラを取り出し、物によっては人間からわずかな謝礼をもらうことはある。怒りや悲しみ、憎しみなどの感情は特に、人間自身が持て余していたそれを少し軽くしてくれたと言って、人間達が喜ぶのだ。喜びや幸せなどの感情も、カケラとして自分から分かれたそれを持っていたいと言う人は時折いる。驕らないように、あるいはいつでも思い出せるように――そういう人もいるから、あたくしのような道楽があるのだ。
とはいえ、基本的には自分が持っていたいという道楽でやっている。だから、核屋を名乗って大々的に商売をする気は一切なかった。
今回だって、数少ない旧知であるアルミラに頼まれたから、写しのあるカケラで《核》にしていたものを出したのだ。キーラと名乗った魔女は紅茶の飲み方なんかがぎこちなくて、それが落ち着くところがある。多少の不作法をこちらがしてしまっても気づかずにいてくれそう、というのは、ある意味で美点なのだ。
キーラの《ドール》は、どちらもほとんど人間のような受け答えができる子達だった。中古という話だけれど、前の持ち主の頃から換算すると長く生きているのかもしれない。《
物語もひとつずつ聞いてくれるキーラがどれを選ぶのか、楽しみだった。
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