第645話 クロスステッチの魔女、一度家に帰る
よく寝て、気持ちのいい朝を迎えて、朝ごはんもしっかりと食べて。それから、私達は帰ることにした。結局決めきれなかったのは残念だけれど、もう《小市》は終わってしまったのだ。それに、そういう場所でしか《核》が売ってないわけではない。
「《魔女の夜市》や《小市》の利点は、一度に複数の、違う地域の魔女の作品が見られること。国も地域も違う魔女、多かったからなあ」
まあ、魔女は魔女なので、見た目の特徴と住んでる国や地域が一致しないことは珍しくないけれど。肌の色も髪の色も目の色も、人間と違って住んでいる地域を判断するには足りない。《ドール》になると、もうなんでもありだ。
「《核》は必要だから、やっぱり近いうちに買いたいんだけど、心当たりはないから……お師匠様に聞いてみよ」
「普通の人形師の魔女から買えないんですか?」
「人形を買うから入れるための《核》を売ってくれるのでよ。でも私たちの場合、もうあの子は体が組めているから、人形を買ったらまた《核》が足りなくなるわ」
「あ」
というわけで《小市》のあのお店は大変にありがたかったのだけれど、買えなかったから仕方ない。足の速い魔女は、《扉》で帰ってしまうから追いかけることもできないのだ。
宿の部屋で、水晶を出してお師匠様の水晶へ繋げる。しばらく手の中で震えた水晶は、その透明の中にお師匠様の像を結んだ。
『クロスステッチの魔女……キーラ? どうしたの?』
「お師匠様、ちょっと相談したいことがありまして」
そういえばドールアイに当選したことも、頭を引き取ったことも話してなかった。なので、最初から説明する。
「……ということで、今、《小市》で買えなかった《核》をどうしようか悩んでるんです」
『あの頭、引き取ったのかい。まあ、ルイスとキャロルに懐かれてるあんたなら、うまくやれるだろうね。それで、《核》だっけ?』
「はい。あと、服を作りたくて一度帰ろうかなと」
『相手の機嫌と仕入れ具合によっては、あたしの馴染みの魔女を紹介してやってもいい。半分趣味で人間の心のカケラを蒐集している、道楽者の魔女だよ。気が向けばになるけれど……相応しいものを何個か、見繕ってくれるだろうね』
「ありがとうございます、お師匠様!」
水晶の波を交換していて会話はできるものの、頭を見てみないと彼女にも相応しい《核》を何種類か選ぶことはできない。何より、彼女が興味を持つか、そして蒐集物の一つを《ドール》として手放すかは別らしい。私は頷いて話を終えると、宿を出て箒に跨った。
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