第646話 クロスステッチの魔女、明日の準備を確認する

 家に帰ってきたのは、街を出て数日後の夕方のことだった。魔法で作ったパンを軽く食べてから、買ってきたものを机の上に広げて整理を始める。


「明日から作りたいけれど、その前に必要なものが全部あるかを確認しないとなのよね」


「では、今日は確認ですね」


 まずは説明の書付を読む。魔法ではなく普通の服なので――『したいと思うなら、魔法を仕込むことはできます。そのための材料は千差万別なので、ひとまずこの説明には魔法を仕込まない場合の、普通の服の作り方を載せています』とあった――下手をすると逆に持っていない可能性があるのだ。


「えぇと……ルイスのシャツの場合まず必要なのは、薄手の布が……ひと巻き。細い糸に、細めの針……これくらいはあったはず。凝り始めたらいくらでもキリがない感じね、これ」


 何度か読んで間違えてないか確認してから、材料があるかを倉庫部屋に見に行く。とりあえず魔法がないものや、魔法があっても薄いものを選んで見てみると、一応足りてそうだった。これで、明日からすぐに作業に入れるからちょっとほっとした。


「マスター、必要なものがあってよかったですね」


「兄様の次は、アワユキの作ってねー」


「わたくしのもお願いしますわね」


 私の体にまとわりつく《ドール》の三人に言われて、私も笑顔で頷いた。多分、全員分にはなんとか足りるだろう。足りなければ、作るか買うかすればいい。


「よーし、じゃあ今日はちょっと早く寝て、明日からみっちりやるわよ!」


「お手伝いできます?」


「何かお手伝いやりたーい」


「それじゃあ何か、お手伝いしてもらおうかしらね」


 わあい、と三人が喜んでくれる姿は、見ていてかわいい。新しい子も迎えたら、一緒にこういう時に喜んでくれる子になるだろうか。お手伝いもしてくれたら嬉しいな、なんて思いながら、必要な素材をすべて出して、私は今夜は早く眠りに就くことにした。


「マスター、楽しそうですね」


「楽しいに決まっているじゃない。普段は刺繍しかしないけれど、今度は違うこともするんだしね。新しいことを学ぶのは大事だし、好きよ? ……編み物は苦手だけど、縫物は覚えておけば魔法に応用できそうだしね」


 編み物はちょっと試してみたけれど、なんだかどう首をひねってもお手本のようにならなかったので。せめて、縫物の方はちゃんとできればいいな。そんなことを思いながら、私はベッド横の棚の上に三人が並んで眠りに就く姿を眺めた。それから目を閉じて、眠りに身をゆだねた。

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